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「技術者のための最新中国事典」は、中国に詳しいコンサルタントであり、現役の技術者でもある遠藤健治氏が、最新の中国事情を伝えるコラムです。変化が激しい中国のものづくりや市場、人々の文化や習慣など、日本企業のビジネスチャンスにつながり得る「今」の情報を素早くとらえ、独自の分析や対策などのヒントを技術者向けに提供します。

 日本と世界の国々で意味が大きく異なる言葉がありますが、「サービス」もその1つです。日本人にとって、それは基本的に無料。「何をすれば相手から喜ばれるだろうか」と考え、相手によってさりげなく内容を変える「十人十色」のサービスが最高のサービスということになっています。

 「5つ星」の評価を受けた欧州のある高級ホテルでは、有名な日本のサッカー選手が着くと、その選手が好む映画のテーマ曲が生演奏されるという話があります。これを聞くと「最高峰のホテルのサービスは違う」「海外でもスター扱いなんて、その選手はすごい」などと思う日本人がいるかもしれません。しかし、それは無邪気な勘違いというものです。

 実際には、そのサッカー選手が初めて宿泊した際に、ホテルの従業員や演奏者の人にチップを渡して映画のテーマ曲を演奏してもらった。それを繰り返すうちに彼らが名前と顔を覚え、そのサッカー選手がホテルにやって来るたびに、条件反射のようにテーマ曲を演奏するようになった、というのが真相です。

 決して無料のサービスではなく、気前よくチップを弾んでもらった代わりに、好みの音楽を流しているのです。もちろん、このきめの細かい対応で満足してもらい、次の機会もまたこのホテルに宿泊してほしいという気持ちも込められています。

 一方のサッカー選手も、単に好きな音楽を聴く満足を得るためだけにチップを弾んでいるのではないはずです。きっと、こうしたサービスを利用することで、同伴するスポーツ業界の人間やマスコミ関係者などに「プロ選手としての価値の高さ」を誇示できると考えていることでしょう。ファンに夢やあこがれを提供しなければならないプロスポーツの世界で生きていく上では、賢明であり、当然の行為とも言えます。

 つまり海外では、サービスはそれ相応の対価を求める行為、すなわち、「一種のビジネス」と言い換えることができるのです。この考え方は、中国においても変わりません。

〔以下、日経ものづくり2010年8月号に掲載〕

遠藤健治(えんどう・けんじ)
技術者・海外進出コンサルタント
日本と中国を含めたアジアのものづくりに詳しい技術者で、海外進出コンサルタント。京セラ入社後、開発部、生産技術部、品質保証部に勤務。中国工場における製造業務指導が評価され、同社を退社して精密機器メーカーの中国工場にて製造部長や品質部長を務める。現在、業務用機器メーカーの技術者として日本と中国をまたにかけて活躍中。著書に『日系中国工場製造部長奮闘記』『中国低価格部品調達記』(共に日経BP社)などがある。