客観的な検証で安全性を高める
前回に続いて今回も実際の企業におけるリスクアセスメント(RA)の事例を紹介する。今回取り上げるのは、化工品の製造を手掛けるメーカー(以下、B社)の事例である
RA導入の経緯
B社では、1999年に起きた事故をきっかけとして設備安全に力を注ぐようになった。その事故の概要は、以下の通りである。
2つの機械の間を往復するトランスファ装置において、装置の操作者との衝突を防止するために光線式センサを設置していた。センサにより操作者の存在を認識している間は、トランスファ装置は動かない仕組みだ。このセンサが作動した場合にトランスファ装置をすぐ再起動できるように、センサのリセットスイッチにトランスファ装置の起動機能を持たせていた。だが、リセットスイッチが接点溶着故障を起こしたため、操作者がセンサの監視領域から離れると同時にトランスファ装置が起動し、操作者がトランスファ装置に跳ね飛ばされてしまった。
こうした不意の起動を防止するには、リセット用のスイッチと再起動用のスイッチを別に設けた上で、スイッチが溶着しても即座に起動しない構造を採用する必要があった。しかし、設計者はそのことを十分に理解していなかった。リセットと再起動を1つのスイッチで行えれば効率が高いと考えてしまったのである。不適切な安全方策が新たなリスクを生み出した典型的な例である。結局、新たなリスクへの対応で追加の投資が必要となり、生産性も低下した。
〔以下、日経ものづくり2013年1月号に掲載〕