高速精密プレス機を主力に据える山田ドビー(本社愛知県一宮市)。毎分4000回転のスピードでコネクタ端子を量産する世界最高速マシンをはじめ、7つの「世界一」を持つ。そんなものづくりにこだわる会社を率いるのが、山田健雄氏だ。代表取締役社長に就任して31年、「売り上げを伸ばせ」「コストダウンをしろ」と言ったことはたった1度もない。

現在はフランスのパリを拠点に、日本とシンガポールにそれぞれ3カ月くらいずつ住んでいます。なぜ、このような生活をしているかというと、海外のお客様のニーズを直につかむためです。
少し前までは、お客様から「こういうスペックのものが欲しい」というアイデアをいただき、それを我々メーカーは形にしてきました。しかし今はもう、そういう時代ではありません。「この部品は、このような造り方をすればまだまだ小さくなります」とか、「今まで切削で造っていた部品がプレス加工でできるようになりました」などと、我々の方からお客様のニーズを掘り起こすことが必要になってきました。だから私は、お客様がいる海外に住むのです。そうすると、日本では見えないことが見えてきます。
最も強く感じるのが、世界の中で日本という国はかなり特異であるという点です。多くの国が富裕層と低所得層に2極化しているのに対し、日本では中間層がボリュームゾーンを占めています。こういう国は、世界であまり見かけません。
従って、特異な日本で売れるものが世界で売れないというのは極自然なことなのです。例えば、自動車。日本では燃費に優れた自動車がよく売れますが、お隣の中国では必ずしもそうではありません。自分の成功や社会的地位を誇示する目的で購入する傾向があるために、高級車の需要が多い。日本と中国では売れる自動車が自ずと違ってくるのです。
このことは、工作機械も同じです。お客様がどういう環境で工作機械を使っているのか、どういうニーズを持っているのかということは、お客様と同じ場所にいないと感じられませんし、出張で数週間滞在したり現地からのレポートを読んだりしただけでは、本当のニーズはなかなかつかめません。春夏秋冬お客様と同じ所に暮らして初めて分かることがあるのです。
〔以下、日経ものづくり2013年8月号に掲載〕
(聞き手は本誌編集長 荻原博之)
山田ドビー 代表取締役社長