技術の発展は、模倣から始まるといわれる。新しい技術を獲得しようとする国や企業が最初に採るのはほぼ例外なく模倣戦略だ。現在、大々的に模倣戦略を採っている国の代表格は中国だが、日本もかつて米国の技術を模倣した時代があった。
この次の段階がリバース・エンジニアリングである。リバース・エンジニアリングは既に市場にある製品を基に、より改良した製品や安価な製品を開発し、それを大量に販売するための方法だ。高い市場占有率を得られると、利益が大きく拡大するのがこの戦略の特徴である。
そして、さらに次の段階を「フォワード・エンジニアリング」と呼ぶ。イノベーションによって高度な製品を独自に開発して販売するための方法だ。これはしかし、市場が成熟して価格競争が始まってしまうと、多くの企業が撤退に追い込まれる。
日本は1950年ごろから20年間ほどは、クルマや家電製品はもちろんほとんどの工業製品で米国を模倣していた。リバース・エンジニアリングの段階に進んだのは恐らく1970年ごろであろう。その後、1980年ごろからフォワード・エンジニアリングの時代に移行し、盛んにイノベーションが生まれるようになった(図1)。
韓国企業は、Samsung Electronics社もそうだが、2000年ごろから始まったグローバリゼーションの時代に、リバース・エンジニアリングで成功してきた。しかし、日本ではもうリバース・エンジニアリングを行うことは難しくなっているようだ。
イノベーションで競争できない
2000年以降、日本においては、例えばテレビなら液晶ディスプレイとかプラズマ・ディスプレイとか、LED(発光ダイオード)をバックライトに使うとか、あるいはリチウムイオン2次電池といったイノベーションが次々に起こった。
一方で、韓国や中国ではイノベーションと呼べるものは起きていない。日本がイノベーションによって開発した技術を組み合わせることで、ユーザーにワクワク感を与え得るものを造ってはいるが、イノベーションによる新技術は全く生んでいないといっても過言ではない。それでも、このワクワク感を武器に、グローバリゼーションによって生まれた新興国という新しい、かつ多様化した市場を取って利益を拡大したのだ。
ここではっきりと言えるのは、Samsung Electronics社が得意とする電機製品などの分野では、イノベーションによる新技術が競争優位につながっていないという事実である。少なくとも、日本を除く世界の市場ではそう言わざるを得ない。リバース・エンジニアリングによって既存の技術を組み合わせることで、売れる製品を十分に造ることができる。むしろ、最先端を行く技術よりも、多様なユーザーに合わせてそれぞれワクワク感、ドキドキ感を出すことが重要だ。競争力とはユーザーに選ばれる力のことだから、これこそが競争力のある製品ということになる。
〔以下、日経ものづくり2013年9月号に掲載〕

東京大学大学院経済学研究科ものづくり経営研究センター