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「メカ設計者も知っておきたい エレ設計のABC ~オーツ君の成長記~」は今号で終了します。2013年12月号からは、中国製品の品質トラブルをテーマに、その実態や設計上の対策などを紹介する講座を始める予定です。日系メーカーの中国工場で製造部長などを経験した遠藤健治氏が執筆します。

バランスのとれたエンジニアリングとは

 前回、いかにしてノイズが発生するかを学んだオーツ氏。いよいよ自分が企画から設計、開発まで携わったタブレット兼用の薄型ノートパソコン(タブレットPC)の試作品が完成し、後は無線機器としてEMC(Electro Magnetic Compatibility)適合試験をクリアするだけとなった。

オーツ(以下O)氏:「ようやく試作品にまでこぎつけました」

 オーツ氏は、最後の仕上げをするべく、ユイ氏を中心とした先輩たちに試作品を見せた。

ユイ(以下Y)氏:「安心するのはまだ早いわよ。前回も言ったように最後にEMC適合試験という難関があるから。そこで重要になるのが、これも前回説明したグラウンド(GND)よ。回路設計者がいくらシグナルGND(SG)を考慮したとしても、フレームGND(FG)がちゃんとしていなければ、製品全体としてGNDの問題は解決しないわ」

O氏:「ということは、EMC問題って、製品全体が見えていないと解決できないということですか」

Y氏:「とてもいい視点ね。つい最後のEMC適合試験では、合格させることを目的に対処療法に陥りがちだけど、本当は原因をきちんと特定して、それを理解した上で設計の上流段階からEMCを考慮することが重要なのよ」

O氏:「これからのEMCは、回路の構成単位という基本から考えて、それを積み上げて構築していくということですね」

Y氏:「そう。これまでのEMCは、製品があらまし完成してから対策に取り組んでいたので、専ら製品全体からユニット、モジュールレベルへと徐々に視点を細かなレベルに移していくというやり方だったの。でも、製品がある程度完成してからしかできない対策は何かを見極めること、そして、それ以外は極力設計の上流段階でつぶしていくことが重要なのよ。つまり、大きなレベルから小さなレベルへとブレークダウンしていくアプローチと、小さなレベルで最初から作り込んでいくというアプローチとの両方が必要なの。これが本当の意味でのEMC設計ね。大まかにはモジュールレベル、ユニットレベル、システムレベルと分類して、それぞれのレベルでEMC問題を解決するための策を講じていくのよ」(図1)

タイシ(以下T)氏:「EMC問題を小さなモジュールレベルから考えていくのは、メカ設計者と回路設計や高周波設計などのエレ設計者がお互いの守備範囲を理解するのにもとても有意義だと思うよ。お互いの守備範囲がオーバーラップするようにしないとEMCは達成できないからね」

O氏:「モジュールレベルなら、トランジスタやIC(集積回路)そのもののEMC特性を見るってことですか」

Y氏:「というよりも、EMCの観点からは搭載するトランジスタやICなどのGNDがどうなっているかが重要になるわね」

 

〔以下、日経ものづくり2013年11月号に掲載〕

図1●EMC設計の考え方
おおまかに[1]モジュールレベル、[2]ユニットレベル、[3]システムレベル、の3段階で設計する。
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前田篤志(まえだ・あつし)
O2 Lab. リサーチフェロー
米国で高周波(RF)技術を教える傍ら、マネジメント要素を盛り込んだ独自の「RF Management」論を構築。現在は特許工学などの講義を基に、現象論に立脚したエレクトロニクス教育の啓蒙に努める。

【会社紹介】
O2 Lab.は、設計開発領域におけるコンサルティングを手掛けるO2の研究開発部門。ビジネスシーズを新規事業にまで育て上げる顧客専属の研究開発機関である。URLはhttp://www.o2-inc.com/lab/