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2013年6月号からは「関伸一の強い工場探訪記」をお届けします。日本にあるさまざまな業種の工場を、工場長の経験もある筆者の関氏が訪問し、表面的な数字だけでは分からない優れた工場の強みや特徴など現場の生の姿をお伝えします。

丁寧な作業を重ねてマザーマシンを生む現場

 静岡県西部地域はかつて遠江国(とおとうみのくに)と呼ばれていた。その別名である「遠州」を社名に持つ工作機械メーカー、それがエンシュウだ。今回筆者が訪れたのは同社の浜北工場(浜松市浜北区)である(図1)

 同工場は「ラインシステム」と呼ばれる量産ライン向けの専用工作機械を主に生産する。ここから約20km離れた場所にある同社本社工場(浜松市南区)では汎用マシニングセンタ(MC)を製造している。このように生産品目は異なるものの、エンシュウが国内に構えたこれら両工場は密接に連携しながら役割分担している。その点も含めて、工場の中を見ていこう。

焦らず、慌てず、諦めない

 今回の取材に対応してくれたのは、エンシュウ取締役工作機械事業部長の山下晴央氏と、同事業部製造部長の平田直巳氏、同部システム組立課長の川島啓文氏、事業革新室課長の原淳記氏の4人である(図2)。会議室で挨拶と簡単な情報交換を済ますと、筆者は早速現場に足を運んだ。

 浜北工場の建屋は1つだが、大きな防火壁で2つに仕切られており、それぞれ「北工場」「南工場」と呼ばれている。筆者はまず、北工場に足を踏み入れた。そこですぐ目についたのがシステム組立課の「焦らない、慌てない、けして諦めない!」というスローガンだ(図3)。

 「工作機械業界において、納期を守ることは特に重要な条件。ただし、少し遅れたからといって焦ったり慌てたりしたら、品質問題につながる恐れがある。焦らず、慌てない上で、諦めずに納期を守ることを目指そうという思いを込めた」と、川島氏がスローガンの心を説明してくれた。「作業者のお尻をたたいても、決して生産性は上がらない」という筆者の信念と同じである*1

 
〔以下、日経ものづくり2013年11月号に掲載〕

図1●エンシュウの浜北工場
図1●エンシュウの浜北工場
図2●左から、事業革新室課長の原淳記氏、取締役工作機械事業部長の山下晴央氏、製造部長の平田直巳氏、同部システム組立課長の川島啓文氏
図2●左から、事業革新室課長の原淳記氏、取締役工作機械事業部長の山下晴央氏、製造部長の平田直巳氏、同部システム組立課長の川島啓文氏
図3●システム組立課の現場に掲示されたスローガン
図3●システム組立課の現場に掲示されたスローガン

*1 川島氏は「工場には象や虎はいないが、危険が潜んでいる』と現場に常々言い聞かせている」という。それは現場作業者自らがKYT(危険予知トレーニング)を学び、労働災害のない安全な現場に改善して欲しいという思いからだ。

関 伸一(せき・しんいち)
関ものづくり研究所 代表
1981年芝浦工業大学工学部機械工学科卒。テイ・エス テックを経てローランド ディー.ジー.に入社。2000年に完成させた、ITを取り入れて効率化した1人完結セル生産である「デジタル屋台生産」が日本の製造業で注目される。2008年からはミスミグループの駿河精機本社工場長、生産改革室長として生産現場の改革に従事。28年間の製造業勤務を経て、3年前に「関ものづくり研究所」を設立。静岡県浜松市在住の55才。