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全自動の1本のプレスライン

 まず、プレス工場に設置した高速かつコンパクトな全自動のプレスライン「高速段取りハイサイクルライン」だ。通常、1000台程度のクルマを生産する際には、プレスラインを2本造る。これに対し、ホンダは従来よりも連続ストローク数(spm)が多い高速な4台のサーボプレス機を導入。鋼板(ワーク)の成形から台車への積み込み、金型の交換、溶接ラインへの供給を全て自動で行う1本ラインを構築した。 

 技術的なポイントは、プレス機を高速に動かすと同時に、プレス機の間を縫うようにして高速でワークを受け渡す高速搬送技術だ。プレス機と搬送機をできる限り同期させる制御技術を開発し、連続ストローク数を最大で20spmまで高めた。加えて、金型交換をロボットで自動化することで段取り時間を75秒に短縮した。従来は人手で行っていたため、18分かかっていた。

 これらにより、狭山工場では5直体制が必要だったところを、寄居工場では3直体制で対応できるようにした。すなわち、生産効率を40%高めることができたのである。

インナーフレーム骨格の溶接

 プレスラインで成形した鋼板は、ボディーを造るために溶接ラインに搬送される。一般に、溶接ラインには初期投資も新車種対応の投資も大きいという課題がある。そこで、寄居工場ではできる限りコンパクトで「軽少な」(ホンダ)設備の溶接ラインの開発を目指した。

 寄居工場の溶接ラインの特徴は、内板(インナーパネル)で骨格を形成した後、その周囲に外板(アウターパネル)を貼り付ける新型ボディー骨格「インナーフレーム骨格」のボディーを組み上げることだ(図2)1)。できる限りスポット溶接だけで鋼板を接合することで、MIG(Metal Inert Gas)溶接やボルト締結といった補強用の後工程を削減する。これにより、コスト削減とボディーの軽量化の両立を図る。例えば、MIG溶接の打点数は44%減、質量は30%減を実現している。これを具現化するために、ホンダは従来の大型の総合溶接(General Welding=GW)工程を、インナーフレーム骨格を溶接する「インナーGW」工程と、アウターパネルを溶接する「スマートGW」工程という、2つのコンパクトな工程に分割した(図3)。

〔以下、日経ものづくり2013年12月号に掲載〕

図1●寄居工場の全景
図1●寄居工場の全景
コスト競争力に優れる最新の生産技術を多数導入した「生産技術のマザー工場」。生産台数は25万台/年で、コンパクトカー「フィット」シリーズ〔SUV(スポーツ・ユーティリティー・ビークル)やセダンを含む〕を生産する。プレス、溶接、塗装、樹脂製部品〔バンパおよびインスツルメントパネル(インパネ)〕成形、組み立て、完成車検査の全工程を備える。従業員数は約2200人。
図2●新型ボディー骨格「インナーフレーム骨格」
フロア骨格にインナーパネルを溶接してインナーフレーム骨格を造った後、同骨格の周りにアウターパネルを溶接してホワイトボディーを組み上げる。ただし、図に示したボディーは軽自動車「N-BOX」のものであり、寄居工場で生産する「フィット」のものではない。
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図3●寄居工場の溶接工程
ボディーを造る大型の総合溶接(GW)工程を、共にコンパクトなインナーGW工程とスマートGW工程の2つに分けたことが最大の特徴。インナーGW工程で、フロア骨格に各インナーパネルを溶接してインナーフレーム骨格を形成する。スマートGW工程では、インナーフレーム骨格に各アウターパネルを溶接する。
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1)「強い工場」取材班「コンパクトライン革命」,『日経ものづくり』,2013年9月号,pp.23-53.