加工の進化
AZ91板材化 住友電気工業
組織制御で塑性加工に道
鋳造材一辺倒にピリオド
汎用的なMg合金「AZ91」の用途を大きく広げる可能性を秘めているのが、住友電気工業が開発した板材だ。2013年にはこの板材を採用した初の製品として、東芝が「dynabook KIRA」を発売した。
住友電工がAZ91板材の量産技術にメドを付けたのが、2010年。それから3年、安定量産に向けた技術開発とユーザーによる評価を経て、ついに実用化にこぎ着けた。展伸材として使われているMg 合金「AZ31」の耐食性の低さから、外装材に使うのをあきらめていた製品などへの適用が期待される。
微細な結晶を均一に分散
アルミニウム(Al)含有量が多いAZ91は、Mg合金の中では耐食性に優れ、汎用Mg合金として最もよく使われている*1。しかし、その利用形態はほぼ鋳造材に限られる。「通常のAZ91は全く塑性加工できない」(住友電工新規事業開発本部マグネシウム合金開発部長の岸本明氏)からだ。硬いMgAl化合物が不均一に析出し、加工時に割れを引き起こす。このため板材が造れず、プレスには向かないというのが、Mg合金が伸び悩んできた1つの要因である。
この壁を突破したのが住友電工だ。同社は、「ストリップキャスティングに類した独自の急冷凝固技術」(同氏)を開発し、金属組織を微細かつ均一に分散させることに成功した(図1)。それにより、大きな化合物の析出を防ぎ、これに起因する割れを防げるようになった。詳細は明かさないが、「多量のAlを母材に均一に混ぜ、かつ急冷するのがポイント」(同社新領域技術研究所マグネシウム合金研究室長の河部望氏)という。
〔以下、日経ものづくり2013年12月号に掲載〕

*1 一般にAl含有量が多いほど耐食性が向上する。
冷間加工 日本金属
圧延時に結晶方向を傾ける
加工コスト削減が視野に
「きれいな金属光沢が出るMg合金圧延材を造るため、原料からこだわっている」―─。日本金属新事業推進部門長の山崎一正氏は、自社の圧延技術に自信をのぞかせる*1。
ダイカストなどの鋳造品一辺倒から、じわりと増えてきたMg合金の展伸材需要に呼応するように、その圧延技術を生かして、同社は他に類をみない材料を開発している。冷間成形可能な板材「TMP」(Texturecontrolled Magnesium alloy Plate)がそれだ。温間成形が必須の一般的なMg合金と異なり、冷間でも成形が可能な圧延材である〔図(a)〕。組成はAZ31とほとんど同じなので、加工後はAZ31向けの表面処理や加飾を適用できる。
通常、Mg合金が冷間でプレス成形しにくいのは、圧延した板材の結晶方向がそろっているためだ。Mg合金の結晶格子は六方最密充填(hcp)で、圧延することによって、厚さ方向に結晶方向がそろう「集合組織」となる〔図(b)〕。実は、Mg合金は、200~300℃以上でないとhcpの六角柱の軸方向(c軸方向)には変形し難い性質がある。冷間加工が難しいのはこのためだ*2。
〔以下、日経ものづくり2013年12月号に掲載〕
*1 例えば、実用化されたMg-Li合金は同社がプレス用板材を供給している。
*2 ちなみにMg-Li合金の結晶格子は体心立方格子(bcc)のため、冷間でも変形しやすい。