低温鍛造 産業技術総合研究所/宮本工業
据え込み加工で結晶粒を微細化
200℃以下で生産性向上狙う
Mg合金の展伸材の広がりが期待される中、ネックとなるのはコストだ。そこで、コスト削減に向けた新しい技術開発も進められている。産業技術総合研究所(産総研)サステナブルマテリアル研究部門と宮本工業(本社東京)が開発したMg合金の低温鍛造技術はその1つだ。鍛造温度を低くすることでさまざまなメリットが得られる。
開発した技術は、鍛造用材料の組織を結晶粒径10μm以下にあらかじめ制御し、サーボプレスを用いて低温(200℃以下)で鍛造するというもの。一般にMg合金の鍛造は400℃程度の高温で行われ、個体潤滑剤が使われる。
しかし200℃程度の低温鍛造が可能になれば、水溶性で扱いやすく除去も容易な潤滑剤が使える上、金型の寿命も伸びる。このため、鍛造部材の低コスト化や生産性向上が期待できるのだ。
加えて、加熱炉や金型の温度保持に掛かるコストも減る他、温度膨張も小さいことから成形後の寸法精度が高まる。これらのメリットにより、宮本工業では最終的には現状の鍛造コストの20~30%削減が可能になるのではないかと見込んでいる。
結晶粒径10μm以下に
開発した鍛造技術は、以下のようなプロセスだ。まず、鍛造用のMg合金に「均質化処理」を施す。同処理は、金属材料をある温度に加熱して一定時間保持することで合金元素を材料中に均質に分散させるもの。具体的には、410℃に加熱した材料をそのまま24時間程度保持し、その後に大気中で放冷する。これにより、結晶粒径が0.1~0.2mm程度にそろった金属組織が得られる。これが鍛造用のブランク材となる。
〔以下、日経ものづくり2013年12月号に掲載〕
燃料電池 東京工業大学/東北大学
通電しない不動態膜の問題克服
高エネルギ密度の1次電池実現
軽量化材料として期待されるMg合金。その一方で高性能な電池電極材料という別の顔も持つ。それが、Mgを電極に使った「Mg燃料電池」(Mg空気電池とも言う)だ。水などと反応しやすいという構造材としての弱点が、電極としては逆に武器になるのである。
Mg燃料電池は、Mgを負極活物質、空気中の酸素を正極活物質とする1次電池で、Mgが水酸化物イオンと結合して電子を放出する現象を利用して発電する。反応の制御が難しく、これまでは実用的でないとされてきたが、その課題を乗り越えてMgの実力をフルに引き出せば、エネルギ問題の解決に役立つとして開発が進んでいる。
反応位置を変えながら発電
例えば、東京工業大学理工学研究科機械物理工学専攻教授の矢部孝氏らが考案したMg燃料電池は、「フィルム型」と呼ぶ構造をしている(図1)。2つのリールを配置し、片方のリールからMg薄膜を送り出し、もう片方のリールで少しずつ巻き取っていく*1。ビデオテープ、もしくはスチールカメラ用のフィルムを思い起こすとイメージしやすいだろう。ビデオテープでは磁気ヘッド、カメラ用フィルムではシャッタに当たる部分に反応室がある。
冒頭で述べたように、Mg燃料電池自体は新しいアイデアではない。Mgと電解質と正極側の電極(炭素など)があれば構成できる上に、理論的にはリチウム(Li)イオン2次電池に比べて大きなエネルギ密度が得られることから、かねて注目されていた。
しかし、Mg合金を負極に用いると、電解液中でMgが溶解するのと同時に、自己放電*2が起こる。このため電極が溶けるだけで、十分な発電量が得られない。特に電解液が酸性だとこの現象が顕著になる。
そこで、自己放電を防ぐためにアルカリ性の電解液が用いられるが、今度は負極のMg合金の表面に水酸化Mg〔Mg(OH)2〕の不動態膜を形成して通電が止まってしまう。結局、従来の材料ではMgをムダなく発電に活用することはできなかった。
これらの問題を解決するために、矢部氏の燃料電池では前述のように、Mg薄膜を使う。反応室でMgの表面を反応させると、その不動態膜を除去せずにフィルムを送る。つまり、反応させる位置を次々と変えていく。この方式なら、アルカリ性の電解液でもMgを十分に反応させられ、「高効率で発電できる」(矢部氏)というわけだ。
〔以下、日経ものづくり2013年12月号に掲載〕

*1 Mg薄膜としてはフィルムにMgを塗布・蒸着する方法や、Mg箔をフィルムでラミネート加工する方法などが考えられる。
*2 自己放電 発生した電子と電解液中の水素イオンが反応して水素が発生する現象。