この連載では、韓国Samsung Electronics社の考え方や業務の進め方を通して、日本企業の弱点や課題を見てきた。最終回の今回は、これまで見てきたことを背景に、日本企業、特に中小企業が自らの長所を生かして、これからどのような戦略を取っていくべきかについて、筆者らが「HY研究会」*1などで最近議論していることを紹介して、まとめとしたい。
筆者は韓国の中小企業庁が進めている「ものづくりスクール」に、ときどき講師として呼ばれている。毎年12月に「元気のいい100社」を選んで表彰しており、その審査員として賞を渡す役割も担っている。その活動を通して、日本と韓国の中小企業の違いが明確に分かってきた。
世界の大手企業と直接取引
韓国の中小企業(ここでは零細企業を除く、従業員50人以上程度の規模の企業を議論の対象にする)は、ドライな同国の取引関係の中で、特定の大手企業を頼れない立場にある企業が多い。従って、自ら能動的に売り込みに行かなければ生き延びることができない。1980年代初めに韓国政府が中小企業育成事業を手掛けたときに応募があった企業の中で、今でも生き残っているのは2%(600社)程度だという。ところが生き残っている企業は、例えば自動車部品メーカーなら取引先のリストに米General Motors社、独Robert Bosch社、スウェーデンVolvo社といった世界レベルの大企業が並ぶ。つまり製品、すなわち「もの」としては、そういった企業に売り込めるだけの技術を持っているわけだ。
しかし、生産、すなわち「つくり」は強くない。韓国企業の多くは生産現場の改善活動が全く根付いていないので、筆者は5S(整理、整頓、清掃、清潔、しつけ)から教えている状態だが、なかなか実践しようとしない。「つくり」をきちんと基礎からやり直して日本企業のようになりたいという意欲はあるものの、なかなかうまい具合に進められない韓国企業が多いというのが実態だ。
対照的に日本の中小企業は、自動車業界でいえば2次部品メーカー(Tire2)以下の企業は取引先の拡大に向けて積極的な営業はあまりせず、ひたすら大企業からの注文を待つ受動的な企業が多い。しかし「つくり」は優れている。5Sができているというだけではなく、製品の機能や品質の差異化につながる“秘伝のタレ”のような、生産に関するノウハウを持っている。同じように見える歯車やねじなどの基本的な要素部品を造る企業であっても、海外にあまたある企業の製品とは一味違うものを造ることができる。
韓国の中小企業の一部には、社長が自身の清掃用具を用意して職場の清掃に徹底的に取り組むなど、「つくり」の強化を始めたところがある。こうした流れが韓国の製造業で本格化して、5Sや改善活動が浸透すれば、日本企業もうかうかしていられなくなる。とはいえ、現時点ではやはり、日本企業の方が「つくり」には長けている。
その優位性を失わないうちに、日本の中小企業は新たな戦略をもって、自ら海外に出ていくしかない。しかし、工場を海外に造るばかりが海外進出ではない。ポイントは、日本企業が持つ「つくり」の優位性に対する世界のニーズをどう生かすかにかかってくる。
〔以下、日経ものづくり2013年12月号に掲載〕
*1 HY研究会 工学院大学教授の畑村洋太郎氏と筆者を中心とする研究会。
東京大学大学院経済学研究科ものづくり経営研究センター