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「ミニチュアラインの製作で 全工程を見渡せる力を伸ばす」では、曙ブレーキ工業が独自に考案した若手研修「ミニチュア生産ラインの製作」をドキュメントタッチでお届けします。研修生たちの意識の変化と気付きが見どころです。なお本文中の所属・役職は取材当時のものです。

若手から「失敗の機会」を奪うな

 曙ブレーキ工業は、若手の生産技術者向けに自社の生産ラインのミニチュアを製作する研修を実施し、すでに3回目(第3期)を終えている。前回は、自動車向けブレーキに使用する摩擦材の基礎研究を主に担当してきた「化学屋」の綾部和也が、研修の第2期(2011年7月~2012年3月)に参加。専門外の機械設計で失敗を重ねながらも、生産技術者として成長していく過程に焦点を当てた。

 今回からは、その翌年(2012年9月~2013年3月)に実施された第3期に舞台を移す。主役は、大学で機械工学を専攻し、入社後はドラムブレーキの生産設備の開発/設計などを手掛けてきた生産技術部門生技開発部機構次世代設備開発課の北島洋志である(図1)

 北島は機械設計の専門技術者である上、第3期の研修に参加した他のメンバーたちに比べて入社6年目と社歴が長い。そこで第3期のリーダーに就任するも、研修の「面倒見役」であるベテラン技術者(アドバイザー)から難易度の高い課題を次々と突きつけられ、苦闘することになる。そんな北島の挑戦と気付きを、今回と次回にわたって見ていく。

前期の作品をどう越えるか

 2012年9月某日、第3期に参加するメンバーたちは、自分たちが手掛けるミニチュアラインのコンセプトを何にするかに頭を悩ませていた。「どうしたら前回のミニチュアラインを超える作品ができるかな…」

 同期のリーダーを務める北島が、メンバーたちに問い掛ける。「第2期は、第1期のミニチュアラインのサイズを大幅に小型化した。さらに小型化してもインパクトはないから、別の切り口にしないと…」

 実は、曙ブレーキ工業のミニチュアライン製作の研修は、回を重ねるごとに難易度が増す仕組みになっている。研修にはあらかじめ幾つかの課題が与えられており、その1つに「前期のミニチュアラインに何らかの改良を加える」とあるためだ。しばらく全員で議論していると、第3期のアドバイザーを務める藤田東司が大きな声で口を挟んできた(図2)。「どうせやるなら思い切ったことをやろうぜ。やっぱり、からくりだろ」

 藤田は、同社が「次世代設備」と呼ぶ、からくりを積極的に導入した設備を社内向けに作製する部署に所属している。第2期は、大幅な小型化を実現したものの、1つひとつの設備の動きが回転運動や直線運動に限定されているところが藤田は以前から気になっていた。ここにからくりらしい複雑な動きを導入すれば、もっと本物の設備に近い動きを実現できることは間違いない。「からくり…。確かに新しい切り口になりそうですね」

 北島もすぐに同意した。入社2~3年目のメンバーにとってはハードルが高いとも思えたが、やってできないことはないだろう。メンバーたちの顔を見回すと、皆、やる気に満ちた表情をしていた。「よしっ、からくりを導入した設備にしようと思うけど、いいかな」「はい。あと、どうせなら、見ている人が笑顔になるような魅力的なラインを作りたいです」「いいね。じゃあ、今回のコンセプトは『魅せる』ラインにしよう」 =敬称略


〔以下、日経ものづくり2013年12月号に掲載〕

図1●第3期の研修でリーダーを務めた北島洋志
図1●第3期の研修でリーダーを務めた北島洋志
北島は、入社6年目で2012年9月~2013年3月に実施された第3期の研修に参加し、リーダーに就任した。東京電機大学工学部第1部機械工学科卒で、趣味は自転車改造と木工細工。入社2~3年目の他の研修生に比べて「動くモノ」の設計経験が豊富。
図2●第3期の研修でアドバイザーを務めた藤田東司
図2●第3期の研修でアドバイザーを務めた藤田東司
藤田は、生産技術部門機構生技部からくりプロジェクトに所属するベテラン技術者。社長である信元久隆の「ミニチュアラインにからくりの要素を入れたい」との意向を受け、アドバイザーに就任した。期間中の愛称は「ミニチュア番長」。写真:谷山 實