米ボーイング社の新型機「Boeing787」のジェットエンジンの中核部品に、物質・材料研究機構がライセンス供与したニッケル(Ni)基超合金が採用された。燃焼ガス温度を高め、ジェットエンジンの効率を向上させることができる。が、それだけではない。実は、この技術にはもっと大きな可能性が秘められている。同超合金の開発で「第13回 山崎貞一賞」を受賞した原田広史氏が、その可能性を語る。

今回の山崎貞一賞*1は、私と、同じ物質・材料研究機構(NIMS)の川岸京子さん、横川忠晴さんの3人が代表でいただきましたが、本当はもっと大勢の人が関わってきました。
振り返れば、開発が始まったのは、私がちょうどNIMSの前身である金属材料技術研究所に採用された1975年のことです。当時の上司だった山崎道夫先生が発電用ガスタービンや航空機用ジェットエンジン向けにNiベースの超合金の研究を開始し、私はタイミングよく研究グループに加わることができました。
研究を始めてから4~5年後、ある程度の材料が出来たとして、山崎先生が航空宇宙技術研究所(現宇宙航空研究開発機構)にサンプルを持って行ったところ、「国産材料なんか危なっかしくて肝心なところには使えない」と、真剣に取り合ってくれなかったと言います。設計側の気持ちも分からないではありませんが、せっかく国産のジェットエンジンを造ろうと頑張っているんですから、もう少し前向きに検討してくれればいいのに、と残念に思いました。
その一方で、1978年にスタートした「ムーンライト計画」の中では我々の材料が取り上げられ、発電用ガスタービン向けの部材として実証運転を実施したり、短時間ですが東京電力さんに電力を供給したりしました。
こうした研究の中で、我々はコンピュータを用いた「合金設計プログラム」を開発しました。合金の組成からクリープ破断寿命や耐酸化性などの特性を予測するもので、膨大な実験をしては結果をプログラムに反映し予測精度を高めてきました。
〔以下、日経ものづくり2014年1月号に掲載〕
(聞き手は電子・機械局長補佐 荻原博之)
物質・材料研究機構特命研究員
*1 山崎貞一賞 材料科学技術振興財団初代理事長で、東京電気化学工業(現TDK)の2代目社長としてフェライト事業を立ち上げた、故山崎貞一氏の功績を称えると共に、日本の科学技術の普及啓発と科学技術水準の向上に寄与することを目的に創設された賞。「材料」「半導体及び半導体装置」「計測評価」「バイオサイエンス・バイオテクノロジー」の4分野を対象に、実用化につながる創造的な業績を上げた人に贈られる。