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市場や開発・生産拠点、取引先としても新興国は日本企業のグローバル化にとって不可欠です。しかし、新興国とはいってもその実情は各国各様。「新興国 現場レポート」では、新興国の訪問経験が豊富な筆者が、その実情を解説し、海外進出を成功に導くヒントを提示します。

 経済のグローバル化が加速している。このグローバル経済下で日本のものづくりが生き残り、そして発展するためには何が必要で、どの方向に進むべきだろうか。国内市場での売り上げ(生産量)を伸ばすことが難しい今、多くの日本企業にとって海外へ進出することは最優先課題だろう。だが、海外進出は単に海外に製造部門を移転することではない。製造部門の海外移転は、日本のものづくりの衰退につながる可能性が高いと思うからだ。そのため筆者は、「国内のものづくりを活性化するための海外進出」という視点が必要だと考えている。

 今後、日本企業が海外の中で特に注目すべきはやはり、市場としての将来性が高く、メーカーが先を争うように進出している新興国だ。筆者は多くの新興国を実際に訪ね、現地のものづくり現場をつぶさに見てきた。新興国と言っても、その現場は多種多様だった。その現状分析を基に、日本企業が各国に進出する際に最適な対応策について、このコラムで解説していきたい。

 最初の2回でグローバル化に向けた全体的な現状分析と対応策について解説し、第3回(2014年3月号)からは新興国の現場レポートを伝えていく計画だ。具体的には、インドネシア、ベトナム、タイ、フィリピン、シンガポール、マレーシア、そしてブラジルだ。いずれも成長が著しく、日本企業にとって大きなビジネスチャンスが広がっている国である。

基盤産業の現状

 製造業とは言っても、対象となる業種は幅広い。本連載では基本的に、ものづくりの根幹を形成している「基盤産業」を対象とする。ここで言う基盤産業とは、いわゆる金型や鋳造を中心とした素形材産業に加えて、プラスチック射出成形・加工業や、東京都大田区などの中小企業集積地にある企業の大半を占める受託加工業を含めたものだ。

 現在、日本の基盤産業は図1に示したように衰退の途上にある。一部のマスコミは「このままでは日本のものづくりは崩壊するかもしれない」などと騒ぎ立てている。その認識は、あながち間違ってはいないと筆者も感じている。その背景にある要因は1つではない。代表的なものを挙げると、以下の6つが考えられる。

〔以下、日経ものづくり2014年1月号に掲載〕

図1●基盤産業が置かれた状況
図1●基盤産業が置かれた状況
大手メーカーとは異なった「6重苦」がある。

* 素形材産業 金型(ゲージ・治具類を含む)や鋳物、金属プレス、鍛造、木型など幅広く、日本のものづくりの根幹を成す産業のこと。

横田悦二郎(よこた・えつじろう)
日本工業大学 大学院技術経営科 教授
1944 年、長野県生まれ。1968年、黒田精工に入社。金型加工用工作機械、金型技術の開発などを手掛ける。同社取締役を経て2005年4月にファインクロダ代表取締役社長に就任。2008年より現職。アジア金型工業会名誉会長、日本金型工業会学術顧問、日本工作機械工業会技術フェローも務める。