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キー・ワードは“オン・デマンド”
作り手の論理からユーザー志向に転換

「SoC(system on a chip)で40%の利益率」,「マスク1枚で高性能ASICを製造」,「MEMS(micro electro mechanical systems)を安売りせずに受託生産」。本誌の調査でエンジニアが選んだ“気になる企業10社”の実践例である。各社の目指す方向を分析すると,ユーザーの要求に合わせて必要な時に必要な量を適正な価格で供給する“オン・デマンド”の事業モデルという共通点が見えてくる。先端技術力と大規模投資を強みに作り手の論理で供給していた既存のデバイス事業モデルを破壊することによって,新たな成功企業のモデル・ケースを作り上げる。
 デバイス産業が転機を迎えている。企業は,既存の事業モデルを破壊し,新たな事業モデルを創造しないと勝てなくなってきた。そこで注目できるのが,本誌調査でエンジニアが挙げた「気になるデバイス企業10社」である注1)。各社の方向を分析すると,ユーザーが必要な時に必要な数量のデバイスを適正な価格で供給する“オン・デマンド”対応が浮き彫りになる。これが次のデバイス事業モデルとなる可能性が高い。

米eASIC●
ストラクチャードASICの低コスト化を追求

 米eASIC Corp.は,ストラクチャードASICの低コスト化を追求した,ファブレス半導体メーカーである。大手半導体メーカーのストラクチャードASICの登場によって,PLD(programmable logic device)メーカーのFPGA(field programmable gate array)は低価格化を余儀なくされた。
 eASICのストラクチャードASICである「FlexASIC」によって,大手半導体メーカーのストラクチャードASICやFPGAには,さらなる低価格化圧力がかかる。特に,かつてのゲートアレイと基本的に同じ構造の大手半導体メーカーのストラクチャードASICは,コストや性能面を改善するために,アーキテクチャの見直しが迫られることになるだろう。

台湾MediaTek●
デジタル家電はASSPで儲ける

 「多品種少量で儲からない」。デジタル家電向けLSI事業の難しさを指摘する声が多い注6)中,台湾のファブレスが40%前後の高い売上高営業利益率を続け,急成長している。台湾・新竹に本社を構えるMediaTek Inc.である。
 同社は,台湾United Microelectronics Corp.(UMC)のマルチメディア関連の設計部門から,1997年にスピンアウトしてできた企業である。UMCがファウンドリ事業へリソースを集中する方針を決めたため,自立を求められた。そんな同社が,設立からわずか4年でIPO(新規株式公開)を果たし,DVDプレーヤ向けSoC(system on a chip)で約50%の高いシェアを確保するまでになった。当初は,パソコン(PC)向けのCD-RWやDVDの駆動装置向けLSIで成長したが,現在成長を支えるのはデジタル家電向けSoCである。「選択と集中」を実践してASSP(application specific standard product)ビジネスを展開,「SoCは儲からないはず」という半導体業界の常識を覆した。

メムス・コア●
多品種少量で攻め,MEMS産業化をリード

 「MEMS(micro electro mechanical systems)の競争力の源泉は,技術力が裏付ける高い製品価値以外にない」。このような理念で,MEMS産業立ち上げの先陣を切ろうとするベンチャが,メムス・コア注9)である。同社は,装置開発からMEMS生産ラインの立ち上げまでを自ら手がけ,MEMSの製品価値を向上させる。「大量生産に走り,技術力で差異化できずに競争力を失った日本LSI産業と同じてつを踏まないこと」(代表取締役の本間孝治氏)。これが多品種少量生産で攻める大きな理由の一つである。

SFT●
SoCとSiPの長所を兼ねた集積手法を提案

 ベンチャのシステム・ファブリケーション・テクノロジーズ(SFT)は,SoC(system on a chip)とSiP(system in package)の両方の長所を兼ね備えたLSI集積化技術を提案した。同社が提供する専用DRAMと,ユーザーが開発したロジックLSIを,マイクロバンプを介してSi基板上に集積する「SiS(system in silicon)」と呼ぶ技術である。これによって,「SiP並みの大容量DRAMを搭載しながら,SoC並みの高速動作が可能なシステムを,SoCより低いコストで実現できる」(SFT代表取締役の吉田健人氏)と言う。

アルデート●
テスト技術でファブレスの事業化を支援

 アルデートは,国内ではあまり見かけない,LSIのテスト設計に特化した技術サービス企業である。テスト設計とは,LSIテスターを稼働させるためのテスト・プログラムや,LSIテスターからチップに送り込むテスト・パターンを作る工程を言う。LSIの大規模化・高速化で,チップ設計や製造だけではなく,テストも難しくなっている。特にファブレス半導体メーカーのベンチャ企業や大学にとって,テスト設計の負担は大きい。こうした組織ではチップ設計の専門家はいても,テストに関しては素人同然という場合が少なくない。アルデートがテスト設計を肩代わりすることで,こうした組織はチップ設計に集中できる。IDM(integrated device manufacturer)にとっては,これまでは社内でこなすしかなかったテスト設計をアウト・ソーシングできるようになる。

米eSilicon●
製造ラインを持たずにLSI製造を受託

 製造ラインを持たずにカスタムLSIの製造を請け負うビジネスで急成長し始めたベンチャがある。米eSilicon Corp.である。ユーザーの設計データに応じて,最適なSiファウンドリや組立・テスト企業を選定し,外注を段取りする。場合によっては設計および検証から製造まで一貫して受託する。Siファウンドリなど水平分業化した専門企業を仮想的に統合することによって,徹底的な低コストと柔軟性を兼ね備えたLSI製造を可能にする。

台湾Jemitek●
液晶にファブレスのビジネス・モデル

 生産規模を拡大してコストを下げる。それが当たり前だった液晶パネルのビジネス・モデルを根本から覆そうとするのが,台湾Jemitek Electronics Corp.である。携帯電話機など小型パネルに的を絞り,多様化するセット・メーカーの要望に応える。その要望を基に液晶パネルの要求仕様をまとめ上げ,自らは製造ラインを持たず,大手液晶パネル・メーカーから部材を調達する。マーケティング・販売部門で付加価値を生み出す戦略である。
 「ビジネス・モデルの構築にあたって,ロームを研究した」。Jemitekを2003年に立ち上げ,現在ChairmanであるJeff Hsu氏のお手本は,意外にも日本の半導体メーカーにあった。

平田機工●
液晶製造装置事業を分業モデルに変える

 TFT液晶パネル向け製造装置のビジネス・モデルを,従来の統合モデルから分業モデルに一変させる可能性を持った企業が出てきた。スピンレス方式のレジスト塗布装置を開発,製造する平田機工である。これからの製造装置技術を切り開くことができるのは,「1社ですべてをこなす統合モデルではなく分業モデルである」と,同社社長の平田耕也氏は言う。技術が急速に複雑化しているため,それぞれの得意分野で強みを持つ複数の企業が集まった方が有利であると,同氏は説明する。

豊田中研●
Siパワー素子をSiCに置き換える

 豊田中央研究所(豊田中研)は,デンソーと協力してSiCの結晶欠陥をケタ違いに低減できる技術を開発した。SiCは高効率,高熱伝導率という特徴を備え,パワー素子への応用が期待されているが,これまでは高品質の結晶が得られにくいという問題があった。ここへ来てSiC結晶の高品質化にメドが付いたことで,Siパワー素子のSiCへの全面置き換えに向けて期待が高まっている。その場合,デジタル家電をはじめとするあらゆる電子機器の消費電力を削減することが可能になる。

ブリヂストン●
粉体材料で低コスト・ディスプレイを実現

 これまでディスプレイとは無縁だったが,独自の材料技術をベースに新発想のディスプレイを事業化した企業がある。世界的なタイヤ・メーカーとして知られるブリヂストンである。同社が開発,事業化したディスプレイ「QR-LPD(Quick Response—Liquid Powder Display)」は,高価なTFT基板を使わずに大型・高精細のマトリクス表示を実現できるうえに,印刷物のような質感の表示が得られる。
 さらに将来は,液晶シャッタの代わりに使うことで,透過型液晶パネルを置き換える可能性を秘める。タイヤ・メーカーから生まれた独自の粉体材料技術が,従来にはない優れた特徴を持つフラットパネル・ディスプレイ(FPD)開発への足がかりになった。材料技術を強みに新時代を切り開く企業の典型例といえる。