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 米国テキサス州オースティンの短い春が終わりを迎え,長く暑い夏がすぐそこまでやって来ていた。州都とはいえオースティンの人口は約65万人と,東京の世田谷区よりも少ない。こぢんまりとしたダウンタウンは,半日もあれば見て回れる。ニューヨークやロサンゼルスといった大都市には幾つもある日本食材を専門に扱うスーパーマーケットなど,もちろん皆無だ。

 そんな街に暮らす日本人が1人,また1人と増え始めた。ソニー・グループと米IBM Corp.,東芝が設立した「STI Design Center」で働くべく赴任してきた,エンジニアとその家族たちである。

「こんにちは。今日から出てきました。よろしくお願いします」

「こちらこそ,よろしく」

 直行便がないため,日本からオースティンへの移動には15時間以上かかることもある。そんな長旅の疲れも見せず,着任したその日からオフィスに顔を出す。ほとんどが初対面である上,上司に直訴してきた者,前職を辞してきた者など,抱えている事情もまちまちだ。それでも「最高のマイクロプロセサを創る」という共通の目標があれば,エンジニアたちが結束するのにそれほど努力は要らなかった。