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日経ものづくり 事故は語る

断熱材剥離の悪夢,再び
シャトル帰還は幸運なだけ

ミッションは成功するも,安全な運航に課題

松浦晋也
ノンフィクション・ライター

スペースシャトル「コロンビア」の空中分解事故から2年半,米航空宇宙局(NASA)はシャトルの運航再開を目指し,2005年 7月26日に「ディスカバリー」を打ち上げた。ところが,コロンビアの事故原因でもあった断熱材の剥離がディスカバリーでも発生するなど,その飛行はトラブル含み。その背景には,シャトルの事故がそれほど起きていないという“幸運”を“安全”と取り違えているNASAの甘い認識がある。

 米航空宇宙局(NASA)は2005年7月26日,米国フロリダ州のケネディ宇宙センターからスペースシャトル「ディスカバリー」(フライトナンバー「STS-114」)を打ち上げた。「コロンビア」の空中分解事故から2年半ぶりの復帰フライトだ。コロンビア事故後の設計変更の成果を確認するとともに,国際宇宙ステーション(ISS)とドッキングし,物資補給と修理を行うという二つの目的を果たしたディスカバリーは,同年8月10日,地上に帰還した。
 しかし,打ち上げ時には外部タンクから断熱材の大きな破片が剥離,軌道上の検査では機体下面の耐熱タイルなどに破損が見つかるなど,“無事”とは言い切れないフライトでもあった。耐熱タイルの破損に関しては,初めてその一部を軌道上で宇宙飛行士が修理するという事態になった。
 中でも,断熱材が剥離したことは大きな衝撃だった。断熱材の剥離こそ,2003年2月1日のコロンビア空中分解事故の直接原因だからである。

コロンビアと同じ設計のまま
 断熱材が剥離した外部タンクとは,主エンジンで使う極低温の液体酸素と液体水素を充てんするためのもの。外気の熱による温度上昇を防ぐため,外壁にBX-250というポリウレタン樹脂を発泡させた断熱材を塗布する。厚さは約5cmだ。スペースシャトルは,この外部タンクのほかに,翼と主エンジン3基を備えるオービタ,大きな推力によって打ち上げ初期に一気に加速するための固体ロケットブースタ(SRB)2基で構成される。
 オービタは,機首1カ所と機体尾部2カ所で外部タンクと結合する。機首と外部タンクの結合には,外部タンク側の「バイポッド」という取り付け金具を使う。バイポッド基部は断熱材を通常よりも分厚くなるように吹き付けた後で,空気抵抗を軽減するために削って形を整える。
 コロンビアでは,このバイポッド基部の断熱材が打ち上げ時に剥離し,破片が左主翼前縁に衝突。主翼前縁に穴が開いた。主翼前縁は,機首と並んで大気圏への再突入時に最も高温となる部位である。コロンビアは左主翼前縁に穴が開いたまま大気圏に再突入したため,主翼内にプラズマ化した高温の空気が吹き込んだ。その結果,左主翼が破壊されたコロンビアは大きく姿勢を崩し,空中分解するに至ったのである。