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日経ものづくり 特報

生産現場の安全が揺らぐ

コミュニケーションで生きるヒヤリ・ハット

生産現場の安全は,設備の安全設計で確保するのが基本。
だが,どうしてもリスクは残る。
それを補うのが「ヒヤリ・ハット」などの活動。
重大事故が増えている今,
これらの地道な活動をもう一度見つめ直す必要がありそうだ。

 記憶に新しい2005年4月のJR西日本の福知山線横転事故。その背景として,綱渡りのようなタイトな運行ダイヤ,恒常化していた速度超過,運転士を萎縮させる管理など,さまざまな問題が取りざたされた。効率を優先するあまり安全を軽視していた経営トップの責任は重い。
 本来,安全な運行を確保するには,ATSなどの安全対策をきちんと施した上で,余裕のあるダイヤを組むなど安全を優先した管理体制が不可欠。ところが同社の管理者層にそうした視点が欠けていた上,現場の危険性を積極的に把握しようという体制・風土になっていなかった。このことは,同社自身が事故の反省と対策として同年5月に発表した「安全向上計画」の中でも認めている(図)。
 運転士たちはあのカーブの危うさに気付いていたようだ。だが,彼らにそれを訴えるすべがなかった。もっと正確にいえば,JR西日本には「事故の芽」という事故につながりそうな事象を報告する制度があったが,ほとんど機能していなかったのだ。報告すればミスと見なされ査定上の減点対象となる。信賞必罰,減点主義の同社では,ボトムアップで現場の情報が上がってくることは期待すべくもなかった。
 実は,日本の生産現場は,JR西日本の事故の芽と同じような「ヒヤリ・ハット」という活動を古くから展開してきた。最近では,国土交通省が,航空会社に対してヒヤリ・ハット事例の報告を義務付ける方針を打ち出すなど,あらためて現場から発信する危険情報に注目が集まっている。

基本は本質安全
 ただし,ヒヤリ・ハットは抜本的な安全対策にはなり得ない。本来,生産現場の安全は,設備や装置の設計段階から考慮すべきで,誰が,どう作業しても事故が発生しない構造や仕組みとするのが理想だ。あらかじめリスクアセスメントして,そのリスクを定量的に評価。その上で,危険源を排除する,危険源に近づかなくて済む構造にする,インターロックを設けるといった本質安全で対応すべきなのだ。
 日本ではこれまで,こうしたリスクマネジメントの考え方が十分取り入れられていなかったが,近年,国際安全規格や労働安全衛生マネジメント・システムによる本質安全の確保が要求されるようになり,リスクマネジメントの概念が広がりつつある。

日経ものづくり 特報
図●JR西日本の安全向上計画
ヒューマンエラーを防ぐための仕組み「事故の芽」が機能していなかったこと,現場と管理者/経営トップとのコミュニケーション不足によって情報伝達・共有が図れていなかったことを安全への課題の一つとしている。