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 立体視可能な3次元(3D)テレビがいよいよ2010年から本格実用期を迎える。3D技術はどこまで進み,今後どう進展するのか,携帯電話機などにどう広がるのか――15年以上,3Dディスプレイの開発に携わってきたエプソンイメージングデバイス パネル生産統括部 P開発設計部 主管部長の濱岸 五郎氏に聞いた。(聞き手は安保秀雄=編集委員)


問 3Dディスプレイの現状をどう見ていますか。

濱岸 五郎氏
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濱岸氏 現在,メガネをかけることで立体視できるメガネ式については,ハリウッド映画の本格的な3D化によって,家庭に普及する環境が整ってきたと言えます。

 一方,メガネをかけない裸眼立体表示式(裸眼式)については,試作レベルでは表示品質の面で一般消費者の満足が得られるレベルにようやく達した段階です。アプリケーションも十分ではないと思っています。

 これまで,3Dディスプレイの研究開発は,メガネ式から裸眼2視点,裸眼多視点へとフェーズが変わってきました。これまで3Dディスプレイのキラー・アプリケーションを発掘できなかったのですが,映画の3D化によって,まずメガネ式から商品化を進めようという動きになっています。

 映画やテレビ映像は2眼であれば3D化が可能です。ゲームももともと3Dのデータを持っています。プロセサの発達により,リアルタイムで立体視を作ることもできるようになりました。コンテンツ業界と一緒に3D市場を開拓していけるようになりました。

問 メガネ式でも,左右どちらかの目に向けた映像がもう一方の目にも見えてしまうクロストークなどの問題,快適性や安全性を高めるためのディスプレイやメガネの性能向上,といった問題は依然として残っているという指摘もあります。

濱岸氏 それは,液晶シャッタや偏光板の性能の向上により,ほぼ問題ないレベルまで到達していると考えていますし,デバイスの発展により一層の工夫も可能と思います。ただし,3Dディスプレイの性能が向上しても提供されるコンテンツが悪ければ,映像酔いなどの問題が発生してしまいます。

 私自身はメガネ式の開発を手がけておりませんが,3Dディスプレイの場合,表示するディスプレイだけでなく表示するコンテンツも安全性に大きく関与しますので,ハードウエアとコンテンツを総合的に評価し,3Dディスプレイを安全に視聴できる環境を構築することが重要でしょう。

問 次に裸眼式について詳しくお聞かせください。

濱岸氏 裸眼式の場合,視点数だけでいうと2視点,4視点から256視点まで実に様々なディスプレイが開発されています。ただディスプレイの解像度は一定なので,視点数が増えると各視点の画像の解像度が減るので,個人的には分野ごとの最適化が重要だと思っています。

 人間工学の分野におけるディスプレイの課題の一つは,視点数重視なのか解像度重視なのかを検討することです。現在,ISO(国際標準化機構)にて裸眼立体ディスプレイの光学的測定法が検討されていますが,ディスプレイを正当に評価する方法を確立し,人間工学的に必要な性能条件を導き出すことが非常に大切であると考えています。

 各社からいろいろな方式の裸眼式3Dディスプレイが発表されていますが,このままでは消費者はそれぞれの良さや特徴を理解できないと思います。共通の測定法がないために,技術の進歩が遅れています。消費者も開発者も共有でき,技術を進歩させることが可能な評価基準を作らなければなりません。

問 メガネ式と裸眼式の応用分野は,異なるのでしょうか。

濱岸氏 大画面ディスプレイの場合,メガネをかけて視聴するのは特に問題はないと思います。しかし,小型ディスプレイ,例えばモバイル・ディスプレイをメガネをかけてまで視聴するニーズは,それほど大きくないと思っています。小型ディスプレイでは,裸眼式が適しているでしょう。

問 裸眼式の課題と,その解決の方向性をどうお考えでしょうか。

濱岸氏 裸眼式の場合,観察範囲の拡大,解像度劣化の防止,視点数/視点幅の最適設計などが課題です。これらについては,ヘッドトラッキングあるいは多視点化という方向で研究が進められています。

 ヘッドトラッキングの場合,フラットパネル・ディスプレイの解像度を最も有効に利用できるという面で優れていますが,今から10年前に取り組んだ時には,人間の頭の検出などセンシングの面でも課題が多くありました。現在は顔検出などのセンシング技術が大きく向上しているので,今後はディスプレイを人がいる方向に向けて追従させる手段が重要になると思います。

 多視点化では,与えられたディスプレイの解像度を視点数で割って,各視点に振り分けるわけですが,このとき視点の数と広がり角は,非常に重要な設計因子になります。これについては,視点の広がり角と3D画像の見え方に着目し最適化する方法を,われわれは2008年に発表しています。

問 応用分野は今後,広がりそうですか。

濱岸氏 先ほど述べたように,裸眼式の当面のターゲットはモバイル端末用の小型ディスプレイと考えています。携帯電話やゲーム機,デジタル・カメラなどの応用が考えられます。

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問 業界全体で解決すべき課題はありますか。

濱岸氏 安全性について,業界全体で広く認識していくべきと思います。3Dディスプレイの安全性を維持するには,前述のようにディスプレイの性能を高めるだけでなく,コンテンツ制作においても配慮が必須です。3Dコンソーシアムでは既に「人に優しい3D普及のための3DC安全ガイドライン」を発行していますが,今後もさまざまな実験,知見を基にガイドラインの精度を高めていくとともに,業界全体に広めていくことが必要です。

 ディスプレイの光学的評価法に関しては,ISO(国際標準化機構)やIEC(国際電気標準会議)において,既に国際標準化への取り組みが始まっています。ディスプレイの性能を正確に評価できる仕組みを確立しないと,これも前に述べたように消費者に安全な3Dディスプレイを供給できません。現在統一化された評価法が存在しないので,業界が一団となって早期に確立する必要があります。