アジア太平洋地域(APAC)は、医療やヘルスケアに関連するIT市場が大きく成長しようとしている。人口の老齢化などで、今後欠かせないソリューションとなるコネクテッドヘルス(医療連携)やテレメディシン・テレヘルス(遠隔医療)の導入や運用・管理に、ITは欠かせないからだ。フロスト&サリバンのアナリストであるナターシャ・グラティ氏に、APACにおける近い将来のヘルスケアIT市場について尋ねた。
まず、アジア太平洋地域(APAC)におけるヘルスケアITのトレンドについて教えて下さい。
医療関連で注視している“メガトレンド”は、次の2つです。1つめは患者中心の医療・ヘルスケアです。製薬企業も医療機関もIT企業もインフラ関連企業も、患者を最も重要な顧客・消費者として見ています。そもそも数が多いので、バーゲニングパワーとしても大きい。
これまでは、医師を中心とする医療関係者が最も重要な顧客・消費者と見られていましたが、状況は大きく変わりました。ITを利用して患者のデータを見ていくことになるので、患者を中心とした形でヘルスケアビジネスが進展すると予測されます。
2つめは医療コスト削減です。高齢化社会を迎える中で、ITを活用して医療コストを削減しようという動きが活発になっています。早期の診断や疾病の特定が可能になることで、コストを削減できると期待されています。

医療・ヘルスケアITに関連する市場の大きさや成長率は、どうなるのでしょうか。
APACのヘルスケアIT市場全体では、2020年まで年平均で13%の成長を続けて、124億米ドルに達すると試算しています。
一方、日本市場の同期間の年平均成長率は5%で、2020年には16億米ドルになります。成長率は低いですが、日本はAPACで最大の市場です。
なおヘルスケアIT市場とは、ヘルスケアや医療サービスの供給者(病院など)によって利用されるソフトウエアツールやアプリケーションの売上高などを指します。
より細かなセグメントごとの予測値を教えて下さい。
より細かいセグメントでは、ビデオや動画を使った診療などテレメディシン(遠隔医療)、専用の機器を利用して心拍数や血圧などバイタルデータを監視する遠隔患者モニタリング、携帯端末や携帯電話を利用したモバイルヘルス(主にテキストベースの情報送受信や音声でのコールセンターなどで、3Dや動画は含まない)と3分野で予測値を出しています。
いずれも2017年までの年平均成長率(予測値)ですが、APACでは、テレメディシンが15.3%、遠隔患者モニタリングが5.2%、モバイルヘルスが3.85%となっています。市場規模の実数は、一般には公開していません。
日本市場は、テレメディシン16.1%、遠隔患者モニタリング0.84%で、モバイルヘルスは0.5%のマイナスという予測をしています。
遠隔患者モニタリングの数字が低いのは、日本の制度上コストをかけてもリターンが少ないので、投資をしたがらない傾向があるためです。またモバイルヘルスがマイナスなのは、日本では既に3Gや4Gの規格に対応した動画が見られる携帯端末モデルが普及しており、テキストベースの利用は伸びないと見ているからです。
最も医療・ヘルスケアITの活用が進むのは、APACのどの国ですか。
国によって、伸びる分野が異なります。例えばテレメディシンは、オーストラリアが先行しています。政府がこの分野に積極的な投資をすることで、市場の成長を支えているからです。
ヘルスケアITのソフトウエアやツールなどは、ASEAN諸国が有望です。なぜならASEAN諸国の政府が、医療施設の充実、医療インフラ充実に積極的だからです。病院が次々に建設されていますし、EHR(Electronic Health Record)の導入も急速に進んでいます。