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――フレキシブルであると何がよいか。

時任氏 柔らかいとか落としても割れないというのが一つ。製造時にロール・ツー・ロール(R2R)方式で量産することで製造コストを下げられるメリットもある。

超薄型有機TFTなどの作製例
超薄型有機TFTなどの作製例
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 柔らかければ、平面でない場所も含め、どこにでも貼って使える。体に貼ってウエアラブルセンサーとして使うこともフレキシブルであるが故にできることだ。これは、硬いエレクトロニクスでは難しい。

 製造コストも重要だ。米NSF(全米科学財団)などの「トリリオン(1兆個)センサー」プロジェクトを現実にするには、センサー1個が100円もしていたのでは高すぎる。現在のRFIDなども価格が高いことで既に市場は飽和気味になっている。我々の微細印刷技術では製造コストを従来の1/10にできる。センサーやRFIDの価格が1/10にできれば、その出荷数は100倍になるとみている。市場としては10倍に拡大する。

――微細印刷技術を用いた有機回路はどこまでできているか。

時任氏 印刷技術はインクジェットからグラビア印刷、フレキソ印刷、スクリーン印刷、オフセット印刷などさまざま方式を適材適所で使い分ける。これらをR2R方式の装置と組み合わせて製造につなげる計画だ。2015年3月には90cm幅のR2R装置が出来上がる。

 微細化の現状は、チャネル長5μmの有機トランジスタが作製できている。目標は同1μmだ。RFIDの動作周波数はチャネル長の2乗に反比例するので、チャネル長を1/2にできれば性能は4倍になる。RFIDなどで用いる論理回路は、(ビットを反転させる)フリップフロップ、NAND、NOR、リング発振器などを開発している。

 こうした回路の高速動作に必要な半導体のキャリア移動度も向上している。最近の成果では、宇部興産と共同でキャリア移動度が3cm2/Vs程度と高いn型の有機半導体材料を開発した。これはよくあるフラーレン系ではなく、独自の有機材料になる。これまでp型の有機半導体材料は開発が進んでいるが、n型はよいものがほとんどなかった。今回の開発で、有機半導体材料でもCMOS回路が容易に作れるようになる。

 半導体は有機材料だが、配線にはさすがに銀(Ag)や銅(Cu)などのインクを使うことを考えている。これらのAgインクやCuインクも優れた特性のものを我々独自で開発した。アニール温度は100℃で、高い導電性を確保できる。配線パターンのライン&スペース(L&S)は20μmを実現できている。

――最近は、無機の半導体、あるいはカーボンナノチューブ(CNT)やグラフェンなどを使ってフレキシブルデバイスを作る例も増えてきた。それらの中で、有機半導体でないといけない理由はあるか。

同上
超薄型有機TFTなどの作製例
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時任氏 無機の半導体では製造コストを大きく下げることが難しいだろう。無機半導体で塗布プロセスを用いる技術も出てきているが、アニール温度を高くする必要がある。我々が想定するPET基板はプロセス温度が120℃以下でないといけない。

 CNTやグラフェンは最近、高い性能が出るようになったとは聞くが、パターニングにはフォトリソグラフィを用いている。我々はオール印刷技術で作ることを目指しているため、選択肢から外れる。

――フレキシブルな有機ELディスプレーの開発はどこまで進んだのか。

時任氏 画素のドライバー回路などを前述のチャネル長が5μmの有機トランジスタ技術で開発している。ドライバー回路に無機半導体を用いていては、パネルをいくらフレキシブルにしても自由には曲げられないからだ。

―― 改めて聞くが、ディスプレーをフレキシブルにすることの価値をどのように人に説明しているか。最近は、フレキシブルであることの価値に疑問を呈する人が多く、記事の中でそうした人にどう価値を伝えればよいか苦労している。

時任氏 私もNHK技研でフレキシブルディスプレーの開発に取り組んだ当初から「フレキシブル懐疑論」はあった。技研内からさえ疑問視する声をよく聞いた。

 ある時、NHK技研公開の展示で、その懐疑派の人が展示品の説明用パンフレットを丸めて手に持ちながら、「フレキシブルである意味は何か」と質問してきたことがあった。私はその丸めたパンフレットを指して「それですよ」と答えた。

【お知らせ】日経BP社が有機エレクトロニクス材料研究会(JOEM)と協力し開催するセミナー「有機エレクトロニクスの次の方向性を考える~機器や社会の変革を起こすコア技術~」(詳細はこちら)では、時任氏に「微細印刷技術の進展とフレキシブル有機集積回路への応用」という題目で講演いただく予定である。他のセミナー講演者へのインタビュー記事は有機エレクトロニクス専門サイトのコラム「キーパーソンに聞く」内にあり。