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◎東京大学工学系研究科機械工学専攻教授の杉田直彦氏。生産加工技術を活用し、医療分野で新しい価値の創出に挑む。
◎東京大学工学系研究科機械工学専攻教授の杉田直彦氏。生産加工技術を活用し、医療分野で新しい価値の創出に挑む。
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製造業の企業にとって今後大きな成長が見込める医療分野。加工技術をどのように医療分野に生かせるかを追求しているのが、東京大学工学系研究科機械工学専攻教授の杉田直彦氏だ。2014年10月7日に、日経ものづくりが主催するセミナー「ものづくり力で拓く、新しい医療~医療現場からのニーズを探る~」に登壇する同氏に、日本メーカーが持つ生産加工技術の医療分野への可能性について聞いた。(聞き手は近岡 裕=日経ものづくり)

──生産加工技術を医療に生かそうと考えたのはなぜですか。

杉田氏:私のバックグラウンドは生産加工で、切削加工をベースにずっとやってきました。この業界の牽引役は、やはりと言うべきか自動車でした。ところが今、企業でもアカデミックの分野でも、自動車が飽和してきたので「次の飯の種」をどこにしようと悩んでいます。そこで、多くが航空宇宙と医療に魅力を感じており、私たちは医療で貢献したいと考えました。

──ものづくりが医療分野に貢献できる余地は大きいのですか。

杉田氏:ものづくりの技術っていろいろ役に立つんだねというのが、私たちがこの分野に関わってきてよく分かってきたところです。バイオマシニング、すなわち削るところもそうだし、デザインしたりアセンブリーしたりするところもそうだし、メカニクス、つまり装置を造るところもそうだし、計測するところにも使えるのです。
 私たちの研究室で主に進めているのは、整形外科の分野。骨を削るというアクションに対して、うまくアプローチしたいと考えています。より身近なのは歯です。歯を削ったり、歯の詰め物を作ったりすることです。
 歯科分野は面白い市場で、医療分野と同じく保険適用という考え方があります。以前は、白色の良い歯の詰め物を入れようとすると、自由(自費)診療で何十万円もするという世界でした。ところが、最近、保険の適用範囲が広がり、白い歯の詰め物でも保険が効くようになって数千円程度で済むようになった。すると何が起きたかというと、加工機の市場が急にワッと盛り上がったのです。
 というのは、それまではアマルガム製の銀の詰め物が多く使われていましたが、ジルコニア・セラミックス製の詰め物の需要が増えた。ジルコニア・セラミックスは削りにくく、新しい加工機が必要となる。というわけで、加工機の市場が盛り上がったのです。
 実は、この部分の保険適用は限定されていて、現状では適用できる本数は少ない。それでも加工業界、加工機械を造るメーカーは「こういうのが造れないかという問い合わせがすごく増えて、もう生産が追いつかない」と言っています。