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 産業技術総合研究所において事業化を視野に研究開発が進む技術や、産総研発のベンチャー企業が展開する技術の中から選りすぐりの3テーマを紹介する本連載。最終回である今回取り上げるのが、産総研で研究開発中のEAPアクチュエータである(連載1回目へのリンク連載2回目へのリンク)。

 EAPアクチュエータとは、高分子材料を使ったアクチュエータを指す。アクチュエータは様々な機器やシーンで使われるが、“EAP”となるとあまり聞きなれない。だが、今後を考えると、ぜひとも覚えておきたい言葉である。触覚デバイスやウエアラブルロボット、医療機器などで広く利用される可能性があるからだ。

 EAPアクチュエータは、金属やセラミックを使うこれまでのデバイスに比べ、変位量が2桁近く大きいという特徴がある。しかも、高分子材料を使っているので軽量かつ加工性に優れ、これまでアクチュエータが使えなかったところに適用できる可能性が出てくる。適用範囲は広く、“手触り”といった物体の触り心地を変える用途から、物体そのものを動かす用途まで使える。

 産総研が研究開発を進めるEAPアクチュエータの特徴や検討を進める用途について、研究開発を主導する健康工学研究部門 人工細胞研究グループ  研究グループ長の安積 欣志氏に聞いた。(聞き手は、大久保 聡=日経テクノロジーオンライン 編集委員)

――EAPアクチュエータとは、どのような特徴があるのか。

安積氏 まずEAPとは何かを説明しよう。
図版説明
産業技術総合研究所 健康工学研究部門 人工細胞研究グループ  研究グループ長の安積 欣志氏

 EAPはElectro Active Polymerの略で、日本語では高分子アクチュエータと呼ばれる。電気駆動で変形する高分子をアクチュエータに用いるというものだ。アクチュエータとして機能するだけでなく、実はセンサーにもなるのも特徴といえる。変形させると電気信号を発するからである。

 高分子アクチュエータは、他には見られない特徴が多々ある。まず、小型で軽量、そしてソフト、つまり物理的に柔らかいということだ。従来のアクチュエータといえば、金属やセラミックといった重たく硬い材料で出来ている。高分子アクチュエータは高分子材料を用いていることから、従来のアクチュエータに比べてはるかに軽い。さらに、加工性に優れているので、様々な形状の軽く、柔らかく、フレキシブルなアクチュエータやセンサーを実現できる。今までにはない特徴を備えたアクチュエータなので、いろいろな応用が世界各地で研究されている。

 1990年代に様々な高分子アクチュエータに関する基本特許が世界中で出願された。産業技術総合研究所でも基本特許を取得している。それが、イオン導電性高分子アクチュエータだ。現在ではカーボンナノチューブをはじめとしたナノカーボンを利用したイオン導電性高分子アクチュエータであるナノカーボン高分子アクチュエータの研究を進め、いくつかのアプリケーションへの適用を念頭に置いて企業と開発に取り組んでいる。

――イオン導電性高分子アクチュエータの特徴が知りたい。

安積氏 高分子アクチュエータには、電流駆動型と電圧駆動型の大きく2種類ある。イオン電導性高分子アクチュエータは電流駆動型に分類される。電流駆動型と電圧駆動型のそれぞれの中でもEAPのタイプによっていくつかに分かれている。

 高分子アクチュエータの事業化で先行するのが、電圧駆動型に分類される誘電エラストマーアクチュエータである。ある欧州企業が手掛けており、スマートフォンなどの操作時にタッチ感を与える触覚フィードバックへの応用へ向けている。

 この誘電エラストマーアクチュエータをはじめとする電圧駆動型は応答性が高く、伸縮性も優れている一方、駆動電圧が1000V以上と高いのが難点だ。それに対し、我々が手掛けるイオン電導性高分子アクチュエータは、数V以下の低電圧で駆動するのが特徴である。

 応答性や変形量は誘電エラストマーアクチュエータに比べて劣るものの、金属やセラミックを使う従来のアクチュエータに比べるとイオン電導性高分子アクチュエータの変形量はかなり大きい。例えば、アクチュエータの長さに対する伸縮率は、セラミックのピエゾ素子の場合は0.1%未満なのに対し、イオン電導性高分子アクチュエータは最大で2%以上とはるかに大きい。

 セラミックのピエゾ素子によるアクチュエータはMHzクラスの高い応答性なのに対し、イオン電導性高分子アクチュエータの応答性は100Hz以下というところだ。だが、変形量が大きいこと、そして大きな変形量を数V以下という低い電圧で得られることが、既存のアクチュエータでは得られない大きな特徴である。こうした特徴を生かし、今までアクチュエータを使いたくても使えなかった用途の開拓を進めている。