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【前回より続く】

電子技術者が仕事を進めていく上で,“ものごと”をきちんと分類できる能力を持つことは非常 に大切です。また,複雑な人間関係が絡み,解決がたやすくない問題に直面した場合,自分の中に判断の切り口をしっかり持つことができれば,判断の迷いが少なくなります。今回はものごとを分類することの重要性やさまざまな手法,判断の基軸,そして広い視野を身に付けることの大切さなどについて解説します。

 ものごとを考える上で,その内容を分類することは古代ギリシャの時代から伝えられています。古代ギリシャの哲学者アリストテレスは,師プラトンから徹底的に分類することを学んだといいます。アリストテレスは2000数百年も前に,生物や植物を分類した資料を残しています。その分析がその後の科学研究に大きな影響を与えたことは,歴史が証明するところです。

 近代の電子技術の発展も,多くの科学者や研究者の興味と努力によるところが大きいといえます。現代の科学技術,とりわけ物質に関する研究にも分類・分析が重要であることに変わりはありません。

 本稿で取り上げたいのは“もの”ではなく,“こと”を分類・分析することの重要性についてです。第1回(2010年10月4日号)で述べたように,“こと”とは事象であり,その状況あるいは状態を指します。人間はもともと“もの”を分類することには慣れていますが,“こと”の分類は不慣れなものです。技術者に求められる基本的な能力として,“もの”を扱う能力(技術力)があります。社会の中では,“こと”の変化によって“もの”の価値が変わります。従って,社会現象である“こと”に対する見方や考え方も重要です。“もの”と“こと”の双方に強い人材であれば,まさに鬼に金棒でしょう。

 人間は,生まれると少しずつ知恵が付いていきます。乳児でも親の顔や声を他人と見分け,聞き分けます。3歳くらいの幼児期になると,相当な量の情報を理解できることは誰もが知るところです。例えば,動くものに関心の強い男の子は,言葉を発するころになると自動車のことを“ブーブー”と呼び,エンジンの動作音で表現します。やがて救急車,パトカー,消防車など車両の特徴をとらえて,分類するようになります。

 さらに成長すると,自動車メーカーや型式で分類するほどになり,その語彙が飛躍的に増大します。その状態を見て,周りの大人は“なんて賢い子だ”と驚いたりするわけです。子供はその驚嘆する大人の言動を心地よく意識に刻み込み,ますますその“こと”への関心が強まっていきます。子育てには,こうした環境が大きく影響します。

ものごとを分類する力をつける

 電子技術者に限らず,人間が社会人として生きていく中でものごとを明確に分類できる能力を持つことは,大きな力になります。とりわけ仕事上では,論理的に考えることが必要になります。

 論理的思考法を活用する目的は,①問題の本質を見極め,論理的・構造的にとらえる,②いくつかの選択肢の中から成功率の高い合理的な解決策を選択する,③選択した解決策の妥当性を関係者に納得してもらう,ことにあります。論理的思考法は,(1)思考を論理的に展開する技術と,(2)論理的思考を構造化するアプローチ技術,に分かれます。

 このうち,(1)の思考を論理的に展開する技術には,演繹法と帰納法があります。演繹法とは「既知の事実・観察事項と一般論・ルールの二つの情報を関連付けて,そこから必然的な結論を導き出す思考法」で,大前提と小前提から結論を導く手法です。別名,三段論法ともいいます。一方,帰納法とは「事象から観察されるいくつかの共通点に着目し,一般論(共通に見られる法則性)を導き出す思考法」です。例えば,輸出が伸びている,失業率が減少している,大衆消費材の売り上げが伸びている,といったいくつかの事実から景気の動向を判断するような手法です。

 (2)の論理的思考を構造化するアプローチ技術には,ピラミッド・ストラクチャーとロジック・ツリーがあります(図1注1)。いずれも,複雑な問題の分析や解決策を考える場合に活用します。その狙いとしては,①事象を整理して構造化すると分かりやすくなる,②言っている内容に矛盾や抜け・モレがない,③何をなぜやるべきかが盛り込まれている,④内容や表現が聞き手にとって分かりやすく構造化されている,などがあります。

注1) ロジック・ツリー活用の例を少し詳しく説明します。図1で,左端の最上流の枠には,目標とする項目名を書き込みます。例えば,ある商品(精密工作機械)に対する顧客満足度向上を目標として記入した場合,右側のA,B,Cの枠には,この目標を達成するための手段を書き入れます。Aには商品の機能,Bには性能,Cには価格や費用といった具合です。さらに下流のaの枠には,商品性能で顧客満足度向上につながる具体的な手段項目を記入します。a1には処理速度,a2には加工精度,a3には消費電力といったものを記入します。bの枠には機能上で顧客満足度向上につながる具体的な改善施策項目,例えばb1には切削工具交換の時間短縮につながる改善施策,b2には加工対応品目数を増加する改善施策,b3には操作性の改善施策を書き入れます。cの枠には,価格や費用で顧客満足向上につながる改善施策を入れます。c1には本体価格の低下につながるコスト削減改善策,c2にはランニング・コスト削減につながる改善施策,c3にはメンテナンス・コスト削減につながる改善策を記入します。

図1 論理的思考を構造化するロジック・ツリー概要図
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 このほかに「MECE(mutually exclusive and collectively exhaustive,ミシイ)」と呼ばれる手法もあります(図2注2),1)。「ある事象を相互にダブることなく,かつモレのない部分の集合として捉える」方法です。的確な分析を行うためには,分類肢が豊富にあることと,モレや抜け,ダブりがないように正確に分類することが重要になります。分類にモレや抜けがあれば分析の正確さが欠け,重複が多ければ効率が悪くなるからです。さらに,今までにない斬新な切り口を考え出すことも,良い分析の条件でしょう。

1) 斎藤,『問題発見プロフェショナル─「構想力と分析力」』,ダイヤモンド社,2001年12月.

注2) 図2では単純化したMECEの例を示しましたが,実際のものごとの分析には,もっと複雑な要素が関連する場合もあります。例えば,顧客からのクレームの対策について考えると,商品の性能,機能,品質の信頼性,安全,価格,費用,営業の対応,アフターサービス体制などいくつもの要因があります。これらの要因の中で,どれがが原因となっているのか十把一絡げでとらえていると,クレームの本質がどこにあるのか見いだすことはできません。MECEは複雑なものごとを明確に分類して位置付けし,分析する考え方です。

図2 MECEの例(例1のみ)
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