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送信系誤り訂正から変調,増幅まで

 ここからは,実際の信号の流れを通してワイヤレス通信で頻繁に使われる用語を解説します。なお,RF部はDC方式を想定しています。 まず図2の送信系から始めましょう。MAC層(プロトコル・スタック)から供給されたデータ(ビット列)は,以下の経路を経てアンテナから電磁波として空中に送信されます。

図2 無線機の内部構成
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①誤り訂正符号化器

 ある程度の誤りを訂正できるように,ここでビット列に冗長性を持たせます。典型的なものとしては,畳み込み符号,ターボ符号,LDPC(low density parity check)符号などがあります。出力ビット数に対する入力ビット数の比を符号化率と呼び,符号化後にビット数が増える割合を示しています。この符号化率は,符号化後のパンクチャリングを行った出力ビット数との比率で表されることもあります。

†畳み込み符号=対象となるビットの前後複数のビットを利用して符号化する誤り訂正符号。利用するビットの数を拘束長と呼ぶ。符号化器は,シフト・レジスタの組み合わせで実現できる。

†ターボ符号=入力ビット列,およびその順番を並べ替えたものをそれぞれ畳み込み符号化する誤り訂正符号。並べ替えをしたものとしないものをそれぞれ復号し,お互いの復号結果をやりとりして再度復号を繰り返すことで,強力な誤り訂正能力を発揮する。

†パンクチャリング=符号化を行った後に,再生可能な範囲内で信号を間引くビット落としのこと。

 誤り訂正符号化は,受信側のビット誤り率を低減できる一方で,冗長性を持たせるため元のデータの伝送効率を下げてしまいます。そのためPHS(personal handyphone system)の初期の規格のように,セル半径(基地局と端末間の最大距離)が小さく伝搬路が良好で,後述のQPSK(quadrature phase shift keying)のように誤り耐性が強いものが用いられている場合には,誤り訂正符号化は用いられない場合もあります。

②変調器

 変調とは,本来はベースバンド信号に搬送波を掛け算して無線周波数帯まで周波数を移すことを指します。しかし,デジタル変調においてはビット列を信号点(コンスタレーション)にマッピングすることを意味します。コンスタレーションとは,もともと星座のことで,信号を振幅と位相で表したものです。具体的に説明しましょう。

 図3(a)は,BPSK(binary phase shift keying)変調のコンスタレーションです。例えばデータの「1」はIチャネルの+1という値にマッピングされ,データの「0」はIチャネルの─1という値にマッピングされます。次の③デジタル・フィルタでは,+1と─1という信号の間を補間する情報を生成することで,波形を滑らかにします。これにより,高周波成分が落とされて,信号を規定の帯域内に収めることができます。

図3 変調方式による伝送効率と誤り耐性
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 続いて,このIチャネルの+1と─1という信号が,⑥の直交変調器でどうなるかを説明します。Iチャネルの信号は,この直交変調器において三角関数の余弦波(cosine,コサイン)の波になります。具体的に言うと,図3(a)のIチャネルの+1と─1は,位相が180度違う余弦波になります。「実際の信号波形はどう変わっているか」を見てください。図A-1(c)で「10110」というデータが続いたとき,データが反転すると変調後の信号も位相が180度変わっていることが分かると思います。