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 半導体に不純物を導入するイオン打ち込み技術は,1952年に登場した1)。当時は固体の不純物をウエーハに接触させて電気炉で加熱し,ウエーハの中に不純物を拡散させていた。これに対して,不純物を含んだガスを放電させ,イオンを取り出してウエーハに打ち込むイオン打ち込み技術を使えば,電気炉では扱えない微量の不純物を高精度に導入することができる。ただし,この方法では装置が複雑になるほか,打ち込み後に不純物とSiを結合させるためのアニール工程を追加する必要がある。このため,量産現場にはなかなか受け入れられず,実用化までには約20年という長い期間がかかった。

しきい電圧制御から用途を開拓

 イオン打ち込み技術が量産ラインで最初に導入された工程は,トランジスタのしきい電圧を制御するために不純物を導入するプロセスである(図1)。ここでは1013個/cm2と電気炉では制御できない微量な不純物を導入する必要があり,イオン打ち込みを使わざるを得なかった。

図1●イオン打ち込みの用途が拡大
図1●イオン打ち込みの用途が拡大
当初はトランジスタのしきい電圧を制御する用途でしか使われなかった2)。その後,ソース・ドレインやウエルの形成といった用途に発展した。著者が作成。

 イオン打ち込み技術は,不純物となるBやPのイオンをガス放電によって生成し,このイオンを高電圧で加速させてウエーハに当てる手法である(図2)。ウエーハに衝突した不純物イオンは固体のSi内部に入り込んで止まる。このイオン打ち込み技術で不純物の量を,正確に制御できるのは,不純物の量を単位時間当たりにウエーハに衝突するイオンの電荷量で判断できるためである。その電荷量はイオン電流として正確に計測・制御できる。

図2●不純物イオンを高電圧で加速し打ち込む
イオン打ち込み技術は,不純物となるBやPのイオンをガス放電によって生成し,高電圧で加速させてウエーハに当てる。著者のデータ。
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 1971年には,米国などでイオン打ち込み装置を専門に製造する新興企業が出現した。最も成功した初期の企業は,米Extrion Corp.である。同社が発表した装置は,イオンを加速する機能だけではなく,所望のイオンだけを分離する機能を備えていた。イオンの分離は,イオン・ビームを静電力で曲げてからウエーハに当てて実現した。静電力による曲がり方がイオンの種類によって異なることを利用し,必要なイオンだけを選択的に取り出す。初期の装置なので加速電圧は20k~200kVと低く,イオン電流も250μAと低かった。それでも,この装置の登場を機にイオン打ち込み装置の開発が加速した。