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一部に穴を開けて表面積拡大

 アモルファス構造のアークブラックを作った後、今度はArガス中で2800℃まで熱する。するとグラファイト構造を有するナノバルーンになる。図5は透過型電子顕微鏡(TEM)でアークブラックを熱したときの様子を見たものだ。

図5 Arガス中で2800℃まで熱する
アークブラックを熱していくとナノバルーンになる。日本電子製のTEM「JEM-2010」を使って撮影した。
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 2000℃を超えたところで結晶の端が黒くなる。黒くなるのは結晶が整列してアモルファス構造からグラファイト構造に変わっていることを示す。2000℃以降、温度が上がるにつれて徐々に結晶がグラファイト構造になっていることが分かる。

 この段階のナノバルーンをEDLCの電極材としてそのまま使っても、ナノチューブに比べて表面積が大きいので高い電気容量に達する。だが筆者らはナノバルーンの比表面積をもっと大きくすることで、電気容量の差をさらに広げる。具体的にはナノバルーンを酸素中で熱して結晶の一部に小さな穴を開けた。ナノバルーンは数十層から成るが、穴を開けることでナノバルーンの内部の層も“表面積”として使えるわけである。

 ナノバルーンを酸素中で熱すると、625℃付近で6員環と比べて結合が弱い5員環の個所が破れて穴が開く。一部だけが破れるのがミソで、例えばアークブラックを酸素中で熱すると温度に比例して結晶全体が崩れる。そうなると電極として使えない。

 図6は熱重量分析の結果で、質量が減るほど結晶構造が壊れていることを意味する。アークブラックを酸素中で熱するにつれて徐々に質量が減ることが分かる。一方でナノバルーンは625℃付近まで質量を維持し、同温度を超えたところで一気に減り始める。減り始める辺りが5員環が壊れたところ。この付近の温度まで熱して使うと一部に穴を開けて表面積を大きくしながら、結晶の大半を占める6員環は残るので、全体の構造を維持できる。

図6 ナノバルーンは燃えにくい
熱質量分析の結果。ナノバルーンは625℃付近まで結晶構造が壊れない。測定装置に島津製作所製の「DTG-60」を使った。基準物質はαアルミナで、温度は100℃から1秒に10℃ずつ1000℃まで高めている。
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 図7は、温度の違いによるナノバルーンの結晶構造をTEMで見た結果である。600℃で熱したときはあまり破れていないが、625℃、650℃と上げていくと破れる範囲が大きくなる。結果的に表面積は大きくなる。これ以上に熱した結果はないが、熱し過ぎると全体が壊れるので使えないだろう。

図7 酸素中で熱すると表面積が増える
600℃に熱したときは結晶構造はあまり破れないが、625℃、650℃と上げていくと破れる範囲が大きくなる。
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