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5Sは利益をもたらす

 5Sは現場だけの話ではなく、企業経営にとっても極めて重要な活動といえる。5Sによってムダな在庫や資産が減り、生産性や品質、安全性が高まる。改善に前向きな職場風土も醸成される。前述したように、これはそのまま企業収益やキャッシュフローの向上など、経営に直結する。

 企業経営とは利益の追求と共に、資産効率の追求でもある。お金が資産に形を変えた設備や治工具、在庫を徹底して減らし、余計なものを買わずに必要なものだけで事業を展開することは、まさに整理である。あらゆる資産がどこに幾つあるかを確実に管理することは整頓に他ならない。キャッシュの創出や資産効率の向上という点からも5Sは現場力、ひいては経営力の基礎と言っても過言ではない。

 次回は5Sをベースに実現する安全と品質について解説する。

マイケル・ポーターが指摘した優位性を得るための現場力の意味

 企業が市場において勝ち残るためには、他社に無い優位性を持たなければならない。米国の経済学者マイケル・ポーター氏は、著書の中で競争優位のタイプには、大きく「コスト優位性」と「差別化」があると分類している。

 コスト優位性とは、同じものを造るならば競合他社よりも安く作ること。一方、差別化とは、競合他社の製品よりも高い付加価値や、競合他社には無い付加価値を提供することである。

 現場力を強化して競合他社より安く造れるようになれば、売価が下がりより多くの販売機会を得られることから、市場シェアの獲得などでさらに競争力が高まる。加えて、高い利益率を確保できるので、技術開発や品質改善、販売促進により多くの資金を投入できる。すると競合他社には無い付加価値やより高い付加価値を提供できるようになり、一層の差別化が図れる。

 経営戦略の視点からみても現場力は重要な役割を担っている。経営戦略を「企業価値の最大化を効率的に実現するために、ヒト・モノ・カネという経営資源をどのように調達・配分するかについての方針と計画」と定義すると、経営戦略を底支えする経営資源が豊富であるほど競争で優位に立てるといえる。

 現場力の高い企業では、自立的に問題を解決できる人材が育ち、設備や治工具、原材料をより効率的に活用できて、効率的な生産活動でより大きな利益を生み出すことができる。まさに、現場力を高めることは、コスト優位性を高め、経営戦略の実現可能性を高めることに他ならないのである(図)。

図●現場力と競争力
市場競争に勝ち残る王道は、コストで優位に立つか、製品で差異化を図るか、だ。経営戦略を実現する上でも現場力は欠かせない。十分な経営資源(ヒト・モノ・カネ)を生み出すのは現場力だからである。
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古谷賢一(ふるたに・けんいち)
ジェムコ日本経営 本部長コンサルタント
大手鉄鋼メーカーで品質保証責任者や海外拠点のマネジメントなどを経験後、ジェムコ日本経営(本社東京)に入社。製造改善や経営改革を多く手掛ける。製造現場に密着したきめ細かい改善実践指導に定評があり、海外拠点(タイ、マレーシア、フィリピンなど)の指導経験も多い。