売れるほどの価値か?
パイロットが消せるボールペンの開発に本格的に取り組み始めたのは2001年のこと*1。2002年にインクの変色温度を制御する技術でブレークスルーがあり、消せるボールペンの商品化が視野に入ってきた。ただし、消せるという機能の価値に対しては同社内でも見方が分かれていた。
*1 色が変わったり消せたりするインクの開発は、筆記用具以外の用途向けに1975年から進めていた。
1つは、かなりの規模で新しい市場をつくれるとする見方だ。日本には、もともと筆記を消して書き直す習慣がある*2。小学生から大学生まで標準的な筆記用具は鉛筆やシャーペン。書き損じは、消しゴムで消して修正するのが一般的である。このため、通常の筆記用具としてボールペンを使う社会人も、消せるボールペンがあれば、「かなりの人が使うはず」(同社)というわけだ。
*2 例えば、米国では修正部分を書き直さずに線を引いたり塗りつぶしたりするのが普通で、消して書き直すことは少ない。
もう1つの見方はやや懐疑的なもの。消す必要があるのならシャーペンを使えばよい。実際に、これまで消せる筆記用具がいくつか商品化されたが、定着するまでには至らなかった。消せることに対するニーズはさほど強くはないのではないか、との見方である。
これまでの消せる筆記用具には、例えば、紙に染み込まないインクを使ったものなどがあった。染み込んでいないので消しゴムでこすり取るようにして消せる。ただ、インクの性質上シャープな線を引くことができず、色鉛筆のような線になってしまうという欠点があった。
当時のパイロットでは、2つの見方のどちらが正しいか判断がつかなかった。一方、フリクションも、まだ技術的な課題を抱えていた。