小林三郎・中央大学大学院客員教授の「ワイガヤはやってみなければ分からない」の一言がきっかけで、有志が集まってワイガヤを実施することになりました。小林氏は、ホンダの技術者時代に数限りないほどワイガヤを経験しています。
本物のワイガヤは3日3晩が基本のようですが、今回は週末を利用しての1泊2日となりました。内容は大きく3つに分かれます。[1]イノベーションにまつわる小林氏の講演、[2]チームでの現地調査、[2]ワイガヤでコンセプトを決める、の3つです。現地調査とは、例えば「秋葉原」や「巣鴨」といった特徴のある街の“変わった所”に行き、現場を見て、感じてくるというもの。そして、そこで感じ取った「空気感」や「価値」をコンセプトに落とし込むのが[3]になります。私のチームは現地調査の対象に秋葉原を選び、“男の娘”がいるメイドカフェと本物の女の子がいるメイドカフェをハシゴしました。
私にとって秋葉原は、小さな頃に家族で家電を買いに行ったことがあるくらいで、なじみのない街です。イメージは「オタクの街」。秋葉原のディープな場所は、オタクの人たちの聖地だから、(特徴のない)自分が行っても浮いてしまうと勝手に思い込んでいたのです。ところが実際に行ってみると…半分正しくて半分間違っていました。
オタクの人たちがいっぱいいることは間違いありません。でも、そんなオタクたちのホームグラウンドでありながら、私のような平凡な人も受け入れてくれる懐の大きさがディープな秋葉原にはありました。私も同僚たちも「いかにもビジネスマン」という出で立ちでしたが、それでも差別されることなく、楽しむことができたからです。メディアの報道など、間接的に見聞きしたことだけを信じていたなら、決して理解できなかった感覚だと思います。「現場に行くことの大切さ」を改めて痛感することになりました。
何より同じ感覚をメンバー全員で共有できたことが大きかった。現地調査の後、共有してきたばかりのディープな秋葉原の空気感や価値をコンセプトに落とし込もうと、全員で脳がふやける(?)ほど考えつくしました。その日の夜遅くまで、そして、次の日の朝早くから。メンバーたちは、共に仕事をする仲間ではありますが、ここまで集中して同じ目標に向かって考えつくしたことはありませんでした。
脳のタガが外れる
この過程でもう1つ、貴重な体験をしました。考え続ける途中で、自分が「バカになる」のを感じたのです(笑)。コンセプトといっても、秋葉原を表現するキャッチフレーズのような言葉を考えるのですが、たくさんフレーズを出すうちに脳が限界を超え、どう頑張っても良い言葉が思い浮かばなくなりました。それでも何かをひねり出そうともがいていると、やがて、「もう他のメンバーにバカだと思われてもいい。思ったことは何でも口にしてしまえ!」と吹っ切れた。私がバカになった瞬間でした。
ワイガヤの狙いは、まさにここにあるように思います。物事を考えて考えつくすと、人の脳は限界を超え、良い意味でのタガが外れます。体験したからこそ言えるのですが、バカをさらけ出し合うと、メンバーとの間に強固な連帯感と信頼感が生まれます。こうなればしめたもの。全員が一丸となって目標に向かってひた走れるようになります。
私たちがどんなコンセプトに行きついたかは、ここでは秘密にさせてください(恥ずかしいので…)。ただ、この体験の後、私は「現場に行くこと」の楽しさに、はまることになりました。(池松由香)
「ホンダ流ワイガヤを体験して見えたこと」(http://techon.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20130424/278751/)より