PR

アイデアの良さに投資

 PebbleはKickstarterによる調達額の記録を打ち立て、同サービスの知名度を一気に広めた。これによって、クラウドファンディングは、優れたハードウエアのアイデアを持つ人が開発に必要な資金を調達する手段に使えることが明確になった。

 現在では、「Arduino」や「Raspberry Pi」といったボードコンピューターを利用すれば、個人でも動作する製品のプロトタイプを作ることができる。これを基に、プロモーションビデオなどを作成することで、最終製品のイメージや設計思想を不特定多数の人に明確に伝えられる。Kickstarterでは、こうした手段によってアイデアを広く公開し、プロトタイプを製品に仕立てる上で必要な開発資金を募集できるわけだ。

 この手段の優れているところは、製品を開発する前に顧客のニーズを探れることである。開発者のアイデアに賛同し「本当に欲しい」と思ったユーザーのみが資金を前払いするため、その時点で人気のあるなしが明確になる。需要が高ければPebbleのように開発者の予想以上の反響を呼び、そうでなければ目標の出資額にも到達しないこともある。Kickstarterによれば、目標額を調達できるプロジェクトの比率は全体の44%だという。このほか出資者は、意見やフィードバックを直接開発者へ送ることも可能だ。

 この結果出来上がる製品は、ユーザーが本当に欲しい機能が入り、いらない機能(贅肉)は削ぎ落とされたものになりやすい。ほとんど使われない機能が大量に組み込まれた、多くの日本製の家電製品とは対照的な結果だ。日本の大手メーカーの製品開発は、基本的に秘密裏に進んでいく。関係協力会社とはNDA(機密保持契約)を締結し、外部に情報が漏れないように細心の注意を払って企画・開発される。この方法では開発中の製品に対して顧客のフィードバックを得られない。この結果、なるべく多くの選択肢をユーザーに与える方向に走りがちなことが、不必要な多機能化を招くのではないかと考えている。

段違いの没入感を実現

 冒頭で紹介したOculus Riftも、Kickstarterで予想以上の金額を調達したプロジェクトの一つだ。目標の25万米ドル(約2500万円)を開始後わずか一日で調達。2012年8月1日から9月1日の期間で、9522人から240万米ドル(約2億4000万ドル)を超える資金を集めることに成功した。

表1 開発キットの仕様
表1 開発キットの仕様
[画像のクリックで拡大表示]

 筆者もこのプロジェクトに出資した一人である。プロモーションビデオでは、従来のHMDと異なる点として、対角で110度という広い画角を持ち、ジャイロセンサーや加速度センサーにより表示画像が頭の向きに遅延なく追従することを強調していた(表1)。加えて、シューティングゲームの代名詞とも言える「Doom」などを開発したJohn Carmack氏をはじめ、ゲーム業界で著名なプログラマー多数の推薦の言葉もあった。300米ドルで開発キットが手に入る金額設定も魅力だった。

 実際に実物が手に入ったのは2013年4月30日である。当初の予定だった2012年12月からは大幅に遅れたが、実物を手にして驚いた。既存のHMDと比べて、映像への没入感が全く違った。事前に公開されていたソフトウエア開発キット(SDK)で作成していたデモソフトを表示させると期待以上の出来栄えだった6)

 その後もOculus Riftは進化を続けてきた。2013年6月のゲーム関連の展示会「E3」に1080pの映像を表示できる試作機を出展(図4)。冒頭で紹介した2014年1月公開の最新版では、HMDに付けた赤外線LEDの光を外部のカメラで検出してHMDの位置や向きを推定するトラッキングシステムを追加し、有機ELディスプレーを使った残像の少ない表示方法も組み込んだ。いまだに発表のない消費者向け製品に向けて、着実に機能を高めている。

図4 1080pの映像を表示できる試作機
2013年6月のゲーム関連の展示会「E3」に出展された。本誌が撮影した。