肌附氏―顧客が喜ぶ新技術を開発すること。これこそが技術者に求められる最大の課題といえるでしょう。これはトヨタ自動車の技術者も全く同じです。新技術を生み出して会社や組織の中で足跡を残さなければ、技術者としての姿勢を厳しく問われかねない。そのことは、前号(2014年10月号)で紹介した通りです。
編集部:やはりと言うべきか、新技術の創造にまつわる悩みは最近目立ちます。前号は新技術を生み出すための「風土づくり」に関する悩みでしたが、今回はアイデアを生み出す具体的な方法に関する悩みですね。トヨタ自動車では、新技術につながり得るアイデアをどのように生み出すのでしょうか。
肌附氏―よく聞かれるのですが、トヨタ自動車に新技術のアイデアを生み出す決まった方法はありません。この点では他の会社の多くと変わらないでしょう。しかし、私が在籍していた頃から幾つか大切にしている行動があります。その1つが、顧客の立場になって考えるということです。
私は生産技術部門に長く在籍していました。開発部門から図面を受け取り、それに応じた金型や設備を設計して、外部の協力会社に発注。納入された金型や設備を生産ラインに設置して製造部に引き渡すことが主な仕事です。ここで大切なことは、図面で求められた性能を満たすことはもちろんですが、同時に作業者がミスなく効率的に作業できるような金型や設備を造ることです。いくら図面通りに造れても、作業ミスが起きやすかったり、作業に大きな負荷がかかるものだったりすれば、生産性が落ちてしまいます。
そういう意味で言えば、生産技術部門の人間にとって、顧客は製造部門の作業者ということになります。つまり、作業者の立場になって考えれば、作業者にとって使いやすく効率にも優れる新技術のアイデアを得られることにつながります。
編集部:ということは、工場に行って生産ラインで働く作業者にインタビューし、どのような金型や設備が欲しいかを聞いて、そこから新技術のアイデアを見つければいいのですね。