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トランジスタにDC電圧を印加しない

 ミリ波レーダーの受信回路をCMOS化する上で、課題となる雑音成分は10kHz程度以下の低周波数域である。

 ミリ波レーダーは、電波の周波数を上げ下げしながら車両の周囲に送信し、反射波の遅れ時間と、ドップラー効果によって周波数が変わった反射波と送信波の周波数差を測ることで、車両周辺の物体までの距離と相対速度を推定する。

 設計によって異なるが、おおむね、周波数差が約10kHzのときで物体までの距離が10m程度、100kHzのときで100m程度に相当するとされる。このため車両から数m先と近い物体の検知精度を高めるには、10kHz以下の低周波数域の雑音を抑えることが重要になる。

 CMOSミリ波レーダーはFET(電界効果トランジスタ)を使うため、その構造上、バイポーラトランジスタのSiGeミリ波レーダーに比べて低周波数域の雑音成分が大きくなりやすい。これまでもミリ波レーダーをCMOS技術で作る取り組みはあったが、過去に公表された研究成果は600kHz以上の帯域でも雑音指数は30dBと大きく、SiGeミリ波レーダーの13dBに比べて60倍程度になっていた(表)。

表 従来品との比較
SiGeチップは、2011年にS.Pacheco氏らが発表した研究成果。CMOS技術を使った従来品は、J.Lee氏らが2010年に発表した成果。

 富士通研は今回、受信回路に「ダブル・バランスド・レジスティブ・ミキサー(DBRM)」と呼ぶ回路構成を採用することで、10kHz以下の帯域で雑音指数をSiGeミリ波レーダーと同等以下にした(図3)。ミキサーは4個のトランジスタを使った差動回路から構成され、送信信号と受信信号の周波数差を計算する回路である。

図3 受信回路の構成
(a)全体の概要。4チャネルある。(b)「ダブル・バランスド・レジスティブ・ミキサー」と呼ぶ回路。直流の電源電圧を使わないことで雑音を抑える。
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 差動回路にすることで、コモンモード雑音を抑えられる。加えてDBRM回路を採用することで、ミキサーを構成するトランジスタに直流の電源電圧を印加することなく、送信信号の交流電力で同回路を動作できるようにした。直流のバイアス電圧がトランジスタに加わらないため、低周波領域の雑音を抑えやすくなる。さらに、交流電力を使いながらミキサー回路の利得を下げない工夫を凝らし、変換利得として21dBを確保した。