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演じることが重要

大久保●僕が3Mという米国発祥のグローバル企業に身を置いて、そのマネジメントを見て、あるいはその一翼を担ってつくづく感じるのは、役割を演じることの重要性です。ひょっとしたら日本企業のマネジメントは、演じるということをあまり意識していないかもしれません。会社は、顧客に対して新しい価値を提供し、それで収益を上げるという舞台です。プライベートな場ではありません。ですから、会社の目的に沿った役割を演じればいいのです。

 たとえ、本当は内気で恥ずかしがり屋で、人前でしゃべるのが苦手だったとしても、マネジャーは部下のやる気を引き出すのが仕事だと考えて、その役割を演じればいい。俳優が本人の性格とは別の人格になるのと同じです。演じる感覚があれば堂々と自信を持って話せます。

 僕は3Mで幾つか賞をいただきましたが、受賞の際は、いつも見え見えな感じで褒められました。明らかにおだてられていることが分かるんですね。日本人の感覚だと「真心がこもっていない」と思うかもしれませんが、僕は良いと思う。それでみんながやる気を出して、新しい価値を創り、顧客に貢献して利益が上がれば問題はありません。会社というのは目的を実現させるための舞台だからです。

小林●演じるという点では、ホンダも似たような感覚がありました。「人がいい」マネジャーが成果を上げるとは限りません。時に“悪役”を買って出る必要があります。顧客価値の実現を真剣に考えると、厳しい質問をして部下を追い込んだり、2階に上げてはしごを外したりといったことをする必要に迫られる場面が必ずあります。

 私の経験から言っても、人がいい上役からはあまり学ぶことがなかった。逆に悪役の上役からは多くのことを学びました。その時は反発もありましたが、今から考えると、大きく成長できた気がします、3代目社長の久米是志さんは、その最たる人です。

 イノベーションを創出するには、3Mのようなしっかりした分かりやすい仕掛けが大事だと思います。人が変わっても継続されるわけですから。マネジメントは、そこを強く意識する必要があります。自然に任せていたのでは長続きしません。特に、イノベーションの創出は景気が悪くなると縮小の対象になりやすいので、なおさらです。しかし、3Mはなぜそのような仕掛けが作れたのでしょうか。

大久保●最初は偶然うまくいったのだと思います。しかし、なぜうまくいったのかを考えて意識して仕掛けを作っていったのだと思います。米国がさまざまな人種、多様な価値観を持つ人が集まる社会であることが影響しているかもしれません。米国では分かりやすさが日本以上に重要です。

 こうした仕掛けを長続きさせるには、マネジメント側の意志と規律が大事です。しかしそれ以上に、人間の本質を見極めることが最も重要だと思います。これまでお話しした「尊敬」「名誉」「お金」の関係は、人間の本質に根差しています。3Mはそれを意識して実践しているのです。

小林三郎(こばやし・さぶろう)
1945年東京都生まれ。1968年早稲田大学理工学部卒。1970年米University of California,Berkeley校工学部修士課程修了。1971年本田技術研究所に入社。16年間に及ぶ研究の成果として、1987年に日本初のエアバッグの開発・量産・市販に成功。2000年にはホンダの経営企画部長に就任。2005年12月に退職後、一橋大学大学院国際企業戦略研究科客員教授を経て、2010年4月から現職。
大久保孝俊(おおくぼ・たかとし)
1955年4月生まれ。1983年3月住友スリーエムに入社。1987年7月、米3M社メモリーテクノロジーグループ研究員。1990年7月、住友スリーエム磁気製品AV技術部主任。2003年9月、3M社アジア・太平洋地域担当シックスシグマ・ダイレクター。2005年6月、3M社コーポレートリサーチ研究所技術部長。2007年6月、住友スリーエム執行役員。2013年1月から現職。社外活動として2013年から東京工業大学非常勤講師。