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マレーシアの弱点とは

 残念ながら、マレーシアのものづくり産業には弱点も存在する。その代表的なものは、金型の国内市場が衰退しており、復活の兆しが見られないことだろう。特に、Proton社以外に大きな自動車メーカーがないことが最大の課題である。

 今後、タイやインドネシアでの自動車製造が本格化すれば、海外の自動車企業が、人口3000万人に満たないマレーシアに新たに製造拠点を持つことは考えられない。海外流出した家電産業がマレーシアに回帰する可能性も低い。

 そのため、マレーシアでは「航空機産業と医療・介護産業向けのものづくりを目指すべき」と言われてきた。しかし、最近マレーシアの基盤産業分野の華僑系経営者の中では「航空機関連や医療関連産業は、市場が小さすぎてものづくりを安定的に活性化させることは難しい」ということが常識とされ始めている。

 やはりマレーシアの金型産業を活性化するためには、衰退しつつある国内市場ではなく、今後も市場拡大が見込まれる南アジア地域をはじめとした海外市場を狙うグローバル企業を目指すべき、という考えが定着しつつある。

 実は、これは日本の金型産業が2014年に策定した「日本の金型産業の目指すべき方向」と同じだが、マレーシアの場合には日本と違った課題もある。日本の金型産業のグローバル化は、日本政府の強力な後押しと、積極的な海外展開を進めている日本の自動車・家電産業の海外製造拠点への販売がしやすいといった好環境が存在するが、マレーシアにはそれがないのである。

 先述の通り、マレーシアには、マレー系民族が中心の政府が推進してきたブミプトラ政策がある。マレーシアの金型産業は華僑系企業が多いこともあり、このブミプトラ政策が障害になって金型産業に対する政府援助がほとんど行われていないのが現状である。

 加えて、日本とは違って海外で活躍するマレー系企業がほとんど存在しないため、それらの企業による海外市場でのバックアップは期待できない。金型産業の最大の売り込み先候補である自動車産業特有の金型ノウハウも、国内の自動車産業が小さいために育っていないばかりか、今後もそのノウハウを取得する可能性は低い。こうした問題が、自動車産業中心の金型需要が多いタイやインドネシアへの販売展開が滞っている原因になっている。

 インドネシアでマレーシアの金型の印象を聞いてみると、次のような返答が多かった。「マレーシアの金型企業は家電系製造を行ってきた華僑系企業が中心だ。以前、中国から金型を輸入したが、自動車産業向け金型として品質の面で満足できなかった。その轍をもう踏みたくない。やはり、現地の日系企業や日本企業から輸入したい」。これでは、いくらマレーシア語がインドネシア語と近くて営業がしやすいといっても、今のままではインドネシアへの売り込みは難しい。

 それでは今後、マレーシアの金型産業はどうすべきであろうか。冒頭で紹介した通り、今度は新たな市場として日本が選ばれたのである。しかし残念ながら、今のままではマレーシアの金型企業が製造している金型が日本市場で成功するのは難しいだろう。

 次回は現在のマレーシアの金型企業が行っている施策とその内容を、幾つかの現地企業を例に挙げて報告し、将来的な可能性について紹介する。

横田悦二郎(よこた・えつじろう)
1944年、長野県生まれ。1968年、黒田精工に入社。金型加工用工作機械、金型技術の開発などを手掛ける。同社取締役を経て2005年4月にファインクロダ代表取締役社長に就任。2008年より現職。アジア金型工業会名誉会長、日本金型工業会学術顧問、日本工作機械工業会技術フェローも務める。