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コンセプトをデザイン

 コンセプトのデザインも極めて重要である。顧客の観察やインタビュー、自らのユーザーとしての体験、プロジェクト内での議論や試作品の製作などを通じ、チームメンバーの意識を顧客の意識/無意識にシンクロ(同期)させていく。こうした作業を通じて、「どのようなコンセプトの商品を開発するのか」「それによって顧客にどのような体験をしてもらいたいのか」、その結果、「顧客の生活にどのようなソリューションを提供できるのか」を詰めていく。

 コンセプトを具現化していく過程には多くのハードルが存在することに加え、コンセプトの内容はプロジェクトごとに異なる。そのため、一般化やノウハウ化はできない。いかにしてコンセプトを固めていくかについては、『デザインマネジメント』の中でケーススタディーとして具体的に紹介しているが、あえて一般化すれば、「このコンセプトに基づいた商品をなぜつくりたいかという根底の部分で、チームメンバーの意識が一致するまで、議論を尽くさなければならない」ということである。

 「優れたコンセプトが優れた商品として必ず結実する」とまでは残念ながらいえない。しかし、陳腐なコンセプトから優れた商品が生まれることは絶対にない。コンセプトのデザインは常に困難な作業だが、商品の生死を決める重要なプロセスだ。

商品をデザイン

 コンセプトが定まると、ようやく商品のデザインにたどり着く(ここでは便宜上、商品と表現しているがサービスやアプリケーションの場合も同様である)。商品のデザインは、一般的に設計や意匠デザインとされている領域だ。コンセプトに沿って、商品に必要な機能や性能、形や色、質感などを決めていく。

 必要な機能や性能を現状の技術で実現できなければ、技術開発が必要になる。例えば、田子學氏をクリエイティブディレクターとして迎えた鳴海製陶の洋食器「OSORO」の開発プロジェクトでは、高い耐熱性と寸法精度を両立させるために、新しい材料の開発と焼成条件の絞り込みという技術開発がカギになった(図2)。商品のデザインには当然ながら技術が大きく貢献する。

図2●鳴海製陶が2012年に発売した「OSORO」
調理から保存まで幅広いシーンで使えるのが特徴。冷凍庫での保存、レンジによる調理、食器洗い機による洗浄のいずれにも対応する。保存の際にはラップの代わりにシリコーン製の蓋とリングを用意した。この蓋とリングが容器にぴったりはまるためには、焼き物の基準を超える寸法精度を実現する必要があった。
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 多くの場合、デザインする商品がイノベーティブであるほど、基本設計をそのまま具現化する上で、数多くの困難に直面する。生産コストとコンセプトの具現性との間にトレードオフが発生するからだ。「もう少し厚くできればコストが下がり生産性も向上する」「鏡面仕上げにこだわる必要はないのでは?」「部品を安価なものに変えても品質が大きく下がらないはずだ」など、数限りない綱引きが発生する。

 そこに全ての場合に通用する正解はない。ただ、コスト低減を徹底すれば、コンセプトが換骨奪胎された商品が出来上がってしまう。逆にコンセプトの具現化だけを追求すれば、コストがどんどん膨んで低い利益率か高価格が待っている。いずれの場合も、商品のデザインが成功したとはいえない。

 ここでは、経営者もプロジェクトチームも安易な妥協に逃げ込んではいけない。時間をかけ、ぶつかり合って、矛盾を止揚する解決策を探していく。デザインは実に泥臭いものだということを痛感するプロセスである。