PR

 蛍石レンズは、光の波長ごとの屈折率の差(波長分散)が通常の光学ガラスと比べて小さく、色収差を少なくできることから、高級カメラレンズや天体望遠鏡、半導体露光装置(ステッパー)などで使われている。特に、高い光学特性が必要なレンズに使われる純度が99.95%以上の「高純度品グレード」の天然蛍石は、「中国の特定の鉱脈からしか採取できない」(岩谷産業 理事で中央研究所 部長の小池国彦氏)ほどの貴重品である。

 今回の合成蛍石を使えば、高純度の蛍石を光学レンズメーカーなどが、天然資源に依存せずに安定調達できるようになる(表1)。ある光学レンズメーカーの技術者は「中国リスクから解放されるのは非常に大きな魅力」と断言する。光学レンズメーカーだけでなく、「電機メーカーや部品メーカーなどからも多くの問い合わせを受けている」(小池氏)ことからも、反響の大きさがうかがえる。岩谷産業は、大量生産技術の確立やコスト低減などを進め、「数年のうちに実用化したい」(同氏)考えだ。

表1 合成蛍石と天然蛍石の比較(表:岩谷産業の資料を基に本誌が作成)
表1 合成蛍石と天然蛍石の比較(表:岩谷産業の資料を基に本誌が作成)
[画像のクリックで拡大表示]

“埋もれた遺産”を転用

 ガスを中心とするエネルギー事業を生業とする岩谷産業が他社に先駆けて量産技術を開発できた背景には、10年ほど前に開発したものの、使われないまま“遺産”となっていた技術の存在がある。同社はかつて、半導体や液晶デバイスなどの製造工程で使う代替フロンガスのPFC(パーフルオロカーボン)の回収/リサイクル技術を開発した。使用済みのPFCガスを回収し、PFCガスの原料であるCaF2に再生するものである。

 だがその後、日本から半導体工場が減り、「2008年のリーマンショックでPFCガスのリサイクル技術が日の目を見ることはないと悟った」(小池氏)という。お蔵入りにしてしばらく放置していたが、「今から3年前(2011年)に、このリサイクル技術を高純度の合成蛍石の製造に転用しようと発想した」(小池氏)ことが今回の成果につながった。

天然品を超える光学特性

 今回発表した合成蛍石(CaF2)の製造方法は次の通り。粉末の炭酸カルシウム(CaCO3)を「特殊バインダー」を用いて直径5mm×長さ5~10mm程度の円柱形状に造粒し、これをフッ化水素(HF)ガスと反応をさせて高純度のCaF2を合成する注2)

注2)量産技術の開発では、名古屋工業大学准教授の安井晋示氏の技術指導も受けた。

 開発した技術のポイントは、CaCO3の粒を、表層部だけでなく芯部までHFと接触させ完全にフッ化反応をさせることである。芯部までHFと接触できるように、CaCO3の粒にまんべんなく空孔を設ける造粒方法を上田石灰製造と開発した。