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 造粒の際に接着剤の役割を果たす特殊バインダーには、「原材料に含まれる元素以外は使っていない」(岩谷産業 中央研究所 商品開発担当の中島健太郎氏)。これは、蛍石の原材料以外の不純物を混入すると、レンズに仕上げた際に光の吸収特性や結晶強度に大きな影響を与えるためである。

 合成蛍石の純度は99.95%以上と高い。この合成蛍石から試作した蛍石レンズは、光学レンズメーカーが要求する、「400n~800nmの可視光領域で90%以上の透過率を有すること」という仕様を満たす(図1)。さらに、300nm付近の紫外光領域では、天然蛍石から作成したレンズよりも高い透過率があった。

図1 幅広い波長領域で90%以上の透過率
図1 幅広い波長領域で90%以上の透過率
開発した合成蛍石を用いたレンズは、200n~900nmと広い波長領域において、90%以上の透過率を有している。特に、天然蛍石では光吸収によって透過率が大幅に低下する300nm付近でも、高い透過率を維持した。(図:岩谷産業の資料を基に本誌が作成)
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HFガスの無償化でコスト低減

 岩谷産業は今後、コストの低減に注力する。今回の合成蛍石の価格は、現状では中国産の天然蛍石と比べて約2倍となる2000円/kgである。低価格化のカギを握るのは、HFガスの調達だ。「合成蛍石を1kg製造するのに、HFガス代で500円程度も掛かる。これを無償で入手できる仕組みを構築する」(小池氏)ことを目指す。エアコンなどから回収した冷媒フロンから調達することを検討している。

 冷媒フロンのうち、レンズ向けの高純度蛍石の原料に適しているのは、HFC(ハイドロフルオロカーボン)である。これを分離回収して熱分解によって破壊し、HFを取り出すプロセスの確立を進める。「現状、フロンの回収業者は処理に費用を支払っている。彼らにHFガスの製造費用を負担してもらえれば、双方にメリットが生まれるはず」(小池氏)とみる。

 HFガス代がゼロになれば、合成蛍石の価格は1500円/kgになる計算である。量産効果を加味すればさらなる低減が可能とする。加えて、天然蛍石はレンズにする際に純度を高めたり表面を洗浄したりする工程を挟む。合成蛍石を用いればこうした工程を省略できるため、「材料コストが多少高くても採用する利点は大きい」(前述の光学レンズメーカーの技術者)という。