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6インチ化が進む

 SiCパワー素子が安価になってきたことも、同素子の普及を後押しする。今後も同素子の価格は下がりそうだ。口径が150mm(6インチ)と大きいSiC基板を、複数の基板メーカーが提供し始めたからである。現在主流の口径100mm(4インチ)品に比べて生産性を高めやすいので、コスト削減が可能になる。6インチ基板の品質も、「4インチ基板並みに向上してきた」(複数のSiC研究者)。

 先行する企業は、6インチラインでの製造を開始している。例えば富士電機は、2013年秋に6インチラインを構築し、2014年から生産を始めている。ロームやデンソーも、2015年ごろに6インチラインでの製造を始める予定である。この他の半導体メーカーも準備を進める。その需要増に対応するため、同素子の生産で利用される、SiC基板にエピタキシャル層を積層したエピ基板の生産を増やす企業が出てきた。昭和電工は2014年9月、同社の6インチのエピ基板の生産能力を、従来の月産400枚から同1100枚に増強した。

 加えて、中国や韓国といった日本以外のアジア企業がSiC基板の提供を始めた(別掲記事「SiパワーモジュールからSiC基板まで、アジア企業がパワー半導体に熱視線」)。今後の価格競争が予想され、さらに基板価格が下がる可能性が高い。

イオン注入工程をSi並みに

 SiCパワー素子のコスト削減に向け、製造プロセスにも改善のメスが入る。例えば、イオン注入プロセスを簡略化できる、高い耐熱性を備えた感光性レジストを東レが開発し、サンプル出荷を始めた(図6)。イオン注入プロセスをSiパワー素子並みに簡略化できるという。従来のイオン注入プロセスにかかる時間を「40%以上短縮できる」(同社)とする。

図6 イオン注入プロセスを簡略化して製造コストを下げる
図6 イオン注入プロセスを簡略化して製造コストを下げる
東レは、SiCパワー素子の製造工程におけるイオン注入プロセスを簡略化できる感光性レジストを開発した。SiCパワー素子のイオン注入プロセスにかかる時間を40%以上短縮できるという。(図は東レの資料を基に本誌が作成)
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 従来のイオン注入工程では、SiC基板に酸化膜をCVD装置で成膜した後、感光性(フォト)レジストを塗布して、露光する。続いてドライエッチングを施して不要な酸化膜を除去し、さらに残ったレジストを剥離する。その後、イオン注入し、マスクとして利用した酸化膜を除去する。

 これに対して開発品を利用した場合、まずSiCウエハーにレジストをスピンコートで塗布する。次に、このレジストを露光し、続いて焼成(キュア)する。それをマスクにしてイオン注入を実施し、最後にマスクを剥離する、という工程で済む。