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 高専の略称で知られる高等専門学校*1が、大きく変わろうとしている。もともと高専の教育は実学として定評がある。校内には「工場」と呼ばれる実習室があり、そこにはさまざまな工作機械や鋳造設備、測定装置などがそろっていて、1年生(高校1年生と同じ年齢)から実際の操作を学んでいる。いわば「手が動く」学生たちだ。こうした学生たちの技術者としての潜在能力をさらに高めるために、高専は課題解決力を強化する教育に力を入れ始めた。

*1 高等専門学校 高校と同様に中学卒業時に受験できる。5年間で工学に関する一貫教育を実施する。卒業後4 割が大学への編入や高専の専攻科(2年間)に進学する。国立51校、公立3校、私立3校がある。1学年の学生数は全国で約1万人。

 では、どうすれば課題解決力を身に付けられるのか。それには東京工業高等専門学校(以下、東京高専)の取り組みが参考になる。答えは明快。「ユーザーに使ってもらえるものを造るプロジェクトを、実際に経験させればいい」。同校機械工学科教授でロボット工学の研究室を構える多羅尾進氏はそう指摘する(図1)。

図1 多羅尾氏と研究室の学生たち
研究室に配属されるのは5年生と専攻科の学生。ロボット工学の多羅尾研究室では、ニーズ探索から製品コンセプトの策定、開発・試作、ユーザー評価を踏まえた改良に至るまで課題解決型の研究開発を進めている。右端が教授の多羅尾進氏。
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 研究室の学生は、例えば高齢者を訪ね、そのニーズを反映させたロボットの開発を実践している。彼らは、「一番好きな機械は旋盤。はめあいがきちんと決まると、ヨッシャと思う」「ロボコンで自分が設計したロボットが狙い通りの動きをしたときなどは達成感がある」「子供の頃からロボット製作キットで遊んでいた」など、みんなものづくりが大好きだ。

 しかし、「今の時代は手を動かすだけではダメ。他にできないことをやらないと、新興国との競争に勝ち抜けない」と多羅尾氏は話す。それには、「お客様」(ユーザー)のニーズに応える製品を開発する能力を身に付ける教育が必要となる。こうした製品開発教育は、文部科学省の支援を受けた「社会実装教育」として他の高専でも始まっている。社会実装とは、社会に導入されて定着した状態のことだ。

 プロジェクトの仕掛け人の1人である東京高専一般教育科教授の浅野敬一氏は発想の原点をこう語る。「理工系の教育機関で、毎年多くの研究や開発の成果が出ているが、実際に実用化している例は少ない。これではあまりにもったいない。研究開発とニーズを結びつけ、実際に使ってもらえるものを造ることが必要なのではないか」。こうした問題意識は、企業の技術者と全く同じだろう。