ドイツの製造業の強さは、2015年3月号の特集2で紹介したような生産分野だけに留まらない。研究開発でも、企業と大学・公的研究機関が緊密に連携して、世界的に注目を集めるイノベーションを次々に生み出している。リニアモーターで駆動するエレベーター、自動運転車、炭素繊維強化樹脂を車体骨格に使うクルマ、生物の動きを取り入れたロボット…。今回はドイツの開発力に焦点を当てる。(山崎良兵)

160年以上も基本原理が変わらなかったエレベーターの世界に革命が起きる─。2014年11月末、ドイツThyssenKrupp社はワイヤーロープを使わない画期的なエレベーター「MULTI Elevator」を開発したと発表した。リニアモーターで駆動する複数の乗りかごが、昇降路内を垂直方向や水平方向に移動して乗員を輸送する(図1)。
現行のエレベーターは、ワイヤーロープで1つの乗りかごを吊り下げて、昇降路内を上下に移動させる方式が一般的だ。これに対し、新方式では昇降路内を複数の乗りかごが同時に移動するため、昇降路内の輸送能力は最大で1.5倍に高まるという。その結果、高層ビルにおけるエレベーターの設置床面積を、最大50%削減することも可能になる。実用化を視野に、2016年に試験運転を開始する。