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 イノベーションの創出では個々が自由に考え、多くの挑戦をすることが必要である。会社の成長に貢献する行動を、自らの意志で実行しなければならない。その際、重要になるのは、個のやる気である。

 やる気を引き出すためには、「夢のあるビジョン」「そのビジョンを具現化する戦略」、そして「社員を元気づける仕掛け」が必要とよく指摘される。しかし、これだけで無条件に個のやる気を引き出せるわけではない。それがうまく機能するには1つの決定的な条件がある。その条件とは、会社を「信じる心」が個に根付いていることだ。

 ここで言う会社とは、具体的には会社のマネジメント*1のことである。経営陣がマネジメントの方針として、「自由な気風」「社会に貢献」「自主性の尊重」「失敗を責めない」「高水準の報酬」などの美辞麗句をいくら並べても、実態が伴っていなければ信じる心は生まれてこない。

*1 マネジメント ここでは業務を遂行するために意思決定や組織の運用、部下に対する仕事の割り振り、部下の管理・育成などを含む広い意味で使う。社長や取締役、経営会議によるマネジメントがトップマネジメントである。

 例えば、イノベーションには「自主性の尊重」が極めて重要だが、それを会社として標榜しながら、1人のマネジャーが議論もしないで自分の意見を部下に押し付ければ、そのマネジャーに対してだけではなく、会社全体のマネジメントに対しても、信じる心は一瞬で霧散する。自主的にアイデアを生み出すやる気も消えてしまう。会社として多くの経営資源を使って作り上げてきたやる気を引き出すための基盤は無に帰すのだ。

 ゆえに、個のやる気を引き出すために最も重要なのは、「マネジメントを信じる心を育てる」ことなのである。逆から見れば「信じるに足るマネジメントを常に行う」ことだ。これは、イノベーションの創出のみならず、組織を活性化するための生命線でもある。

 今回は「信じる心を育てる」ための基本を紹介したい。ここではマネジャーが主役を担う。具体的には「自主性のある人材を創るマネジメントの規律を定義する仕組み」と「理念に適合しない社員と向き合う勇気」を取り上げる(図1)。

図1 イノベーションの設計図 組織の設計編
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