2輪でも4輪でもない。3輪の電気自動車(EV)が疾走を始めた。フィリピンやインドネシアといった東南アジアや、インドやバングラデシュを中心とする南アジアには、数千万台規模の3輪車市場がある。巨大市場を狙って、日本のベンチャー企業が攻勢を掛けている真っ最中だ。現地のニーズや各社の動向を追った。

ラオス北部に位置する古都ルアンパバーン。1995年に国連教育科学文化機関(UNESCO)によって世界遺産に登録されて以降、世界中から訪れる旅行者を魅了し続けている。
朝5時半。外はまだ薄暗く、街を静寂が包む。そこへ、オレンジ色の大行列が歩いてきた。僧侶が信者の家々を巡り食糧などを乞う「托鉢」だ。僧侶が長蛇の列をなすルアンパバーンの托鉢は、世界最大級の規模と言われる。
「バババババ」──。突然、静寂を切り裂く音が響いた。3輪タクシーの「トゥクトゥク」だ。托鉢を見ようと飛んできた観光客が、神聖な雰囲気を台無しにしてしまった。托鉢は僧侶の修行にとってはもちろんのこと、ラオスの観光資源としても重要な文化である。騒音と排ガスをまき散らすトゥクトゥクを問題視する声が高まっていた。
そこで白羽の矢が立ったのが、3輪の電気自動車(EV)だった。ラオス政府は、3輪EVなら騒音や大気汚染を防ぎ、街の静寂を守れると判断した。現在、ラオス国公共事業運輸省が中心になって、ルアンパバーンにおいて3輪EVを定期路線で運行させる準備を進めている。日本のプロッツァが開発した3輪EVを14台、国際協力機構(JICA)を通じて納入した(図1)。2015年9月1日に本格稼働を始める計画だ。
一方、バングラデシュでは札束が飛び交っていた(図2)。ここは、同国有数のバイクメーカーRunner group of companies社の販売店。われ先にと現金を握りしめて押し寄せる人々の視線の先にあったのも、3輪EVだった。