東京大学の生産技術研究所と先端科学技術研究センターが共同運営するナノエレクトロニクス連携研究センター(NCRC=Nanoelectronics Collaborative Research Center,http://www.ncrc.iis.u-tokyo.ac.jp/)の発足記念シンポジウム「ナノテクノロジーが開く次世代情報通信素子技術基盤」が,2002年11月26日に東京・目黒区のこまばエミナースで開催された。NCRCのセンター長である先端科学技術研究センターおよび生産技術研究所の教授を兼務する荒川泰彦氏(写真1)をはじめ,同センターに参加する国内外の第一線の教授陣による講演があり,300人余りを収容できる会場は,熱心に聞き入る参加者でほぼ満員の状態だった(写真2)。産学官連携による産業活性化への寄与が,同センターに大いに期待されていることの現われと言えるだろう。

 同センターは,同年4月に設置され,文部科学省が平成14年度(2002年度)に開始した「ITプログラム」の2プロジェクト全9課題のうち,「世界最先端IT国家実現重点研究開発プロジェクト」の1課題である「光・電子デバイス技術の開発」の実施機関に選ばれている(2002年5月14日付の記事参照)。さらに,経済産業省が同じく平成14年度に開始した「高度情報基盤プログラム」の「フォトニックネットワークデバイス技術開発プロジェクト」の実施機関である光産業技術振興協会とも連携し,同プロジェクトに関連した研究開発も行う。

 センター長の荒川氏は,「ユビキタス情報社会の実現へ向け,その重要課題となるブロードバンドかつワイヤレスの通信環境を高度に実現するための基盤技術の確立を目指す」という強い意欲を,講演の中で語った。また,同センターの“顔”とも言える生産技術研究所教授の榊裕之氏は,1982年に量子ドットを提案した世界的に著名な論文(荒川氏との共著)をはじめ,1980年代の量子デバイスの研究について講演の中で言及し,「当時,東芝に在籍していた西義雄氏がデバイスの試作に協力してくれた」というエピソードを,産学連携の一例として披露した。西氏は現在,米国のStanford大学教授で,同大学のNanofabrication Facility所長を務める。2001年1月に当時の米国大統領のW. J. Clinton氏が掲げた国家戦略「NNI(National Nanotechnology Initiative)」を策定したメンバーの1人としても知られる(2002年9月12日付の記事参照)。

 興味深かったのは, NCRCに参加するStanford大学教授の山本喜久氏(2002年9月30日付の記事参照)が,日本の大学と米国の大学の違いを尋ねた会場からの質問に対する回答の中でのコメント。「Stanford大学では,人材育成を第一に考えている。それも,“即戦力”というよりは,20年後,30年後のIntellectual Leader(知的リーダー)になれるような幅広い知識を身に付けさせる」と,山本氏は,研究内容そのもの以上に,人材育成が重要であることを強調した。それは,日本の大学には,現在は持っておらず,これから持つように努力しなければならない極めて重要な機能と言える。NCRCには,研究成果のみならず,こうした人材育成機能でも社会に貢献することを期待したい。(日経ナノテクノロジー 桜井敬三)

【写真1】発足記念シンポジウムで講演するナノエレクトロニクス連携研究センター長の荒川泰彦氏
【写真1】発足記念シンポジウムで講演するナノエレクトロニクス連携研究センター長の荒川泰彦氏

【写真2】300人余りを収容できる会場は,熱心に聞き入る参加者でほぼ満員の状態。講演しているのは,生産技術研究所教授の榊裕之氏
【写真2】300人余りを収容できる会場は,熱心に聞き入る参加者でほぼ満員の状態。講演しているのは,生産技術研究所教授の榊裕之氏