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 シンガポール大学電気工学科助教授でシンガポール国立データ記憶研究所ナノスピン電子工学プログラムマネジャーのYihong Wu氏は2002年11月29日,東京都内で開催された「ASIA NANO 2002」(2002年11月27日付の記事参照)の最終日に「Carbon Nanowalls and the Associated Nanostructures」と題して招待講演。この中で,「独自に開発したカーボンナノウォールのFED(Field Emission Display,電界放出ディスプレイ)用電極としての特性を評価したところ,これまでに公表されているカーボンナノチューブより優れている」ことを示すデータを発表した。ナノチューブよりも低い電界強度で電流を発生でき,真空度の低い環境でも機能することから,「安価なFEDの製造に道を開く」(Wu氏)と本誌に話した。

 カーボンナノウォールとは,Wu氏らが2年前に開発した“壁状”のナノカーボンである(写真)。Wu氏は最近,日本のアルバックがカーボンナノチューブの研究開発者向けに市販しているCVD(化学気相成長)装置の「CNT100」を用いて,MPECVD(Microwave Plasma Enhanced Chemical Vapor Deposition,マイクロ波プラズマ励起化学気相成長)法で基板材料,触媒,温度,チャンバー内雰囲気を変化させながらナノウォールの成長過程の基礎研究を行ってきた(2002年7月3日付の記事参照)。今回,ナノウォールが産業応用できるかどうかを検証するため, FED用電極材料としての評価実験を行った。

 まず,寸法が1cm×1cmのCu(銅)基板上に特性を評価するためのナノウォールを成長させた。次に,この基板を陰極とし,50μmの間隔を空けて陽極となるCu基板を対向させてチャンバー内に設置。チャンバー内の圧力を1×10-5Torr(約1.33×10-3Pa)まで下げ,電界の強度を上げながら陰極から放出される電子の電流密度を測定した。実験温度は,室温を模擬した20℃と,200℃,300℃,400℃である。20℃の実験では,電子を放出し始める電界強度(ターンオン電界)が0.32V/μmで,その時の電流密度は0.19mA/cm2と測定された。チャンバー内温度が200℃,300℃,400℃の時のターンオン電界は,それぞれ0.26 V/μm,0.20 V/μm,0.16 V/μmだった。Wu氏によれば,これらのターンオン電界は,カーボンナノチューブを用いた実験で発表されている値と比較し,同氏が知りうる限りではより低い値だとしている。また,400℃において電界強度が0.32 V/μmの時の電流密度は17.6 A/cm2で,これはナノチューブを用いた実験で発表されている値より高いという。

 次にWu氏は,チャンバー内のガス雰囲気を変えてナノウォールから発生する電流の安定性を評価する実験を行った。使用したガスはN2(窒素),H2(水素),O2(酸素),それにCH4(メタン)である。実験は全て室温で行った。あらかじめチャンバー内に各々のガスを充てんし,3Torr(約400Pa)で10分間保持。次に圧力を下げて同じガスを連続的に流入し続け,圧力を1×10-3Torr(約0.133Pa)に保ちながら発生する電流を測定した。その結果,O2とCH4を用いた時の電流値は時間の経過とともに急激に減少。特にO2を流すと電流値は測定開始からわずか15分間で26.5%落ちた。これに対し,N2とH2を用いた時の電流値の落ちは,30分間でそれぞれわずか1.7%,1.8%だった。この結果を受けてWu氏は,「ナノウォールは,(チャンバー内のガス成分に注意すれば)1×10-3Torrという低い真空度でも電流を長時間発生できる。このことは,電極にナノウォールを用いたFEDは低コストで生産できる可能性を示している」と話した。(日経ナノテクノロジー 黒川 卓)

【図】カーボンナノウォールの走査電子顕微鏡写真。右下にあるスケールバーの長さは100nm
【図】カーボンナノウォールの走査電子顕微鏡写真。右下にあるスケールバーの長さは100nm