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 2004年3月15日,文部科学省ナノテクノロジー総合支援プロジェクトセンターが主催する「第2回ナノテクノロジー総合シンポジウム」が開幕した。2001年ノーベル化学賞受賞者で独立法人 理化学研究所(理研)理事長の野依 良治氏(写真)の基調講演で始まり,会期は3月17日までの3日間。1日と2日目は,ナノバイオ,ナノITデバイス,ナノ基盤,ナノ計測,ナノ材料などの分野で著名な研究者の招待講演がある。3日目は,若手ナノテク研究者の公募による発表,および独立行政法人科学技術振興機構(JST)のナノテクノロジー分野別バーチャルラボのセッションがある。

 野依氏は「直接ナノテクに関係ないかもしれない」(野依氏)としながらも,「科学者と日本社会」と題した基調講演の中で,(1)日本の科学技術の指針,(2)研究の評価の問題,(2)評価が高い研究者を育てるための提言---について語った。

 まず,野依氏は日本の科学の指針として,理研 第三代所長の大河内 正敏氏が提唱した“理研精神”を推奨した。大河内氏は科学者の精神解放をしたとして,野依氏は「科学技術は経済界の奴隷ではなく,産業界のしもべではない。産業技術は,短期的な事業性や採算性を追求しており,科学技術の一部でしかない」と強調した。「科学技術者は,持続性がある社会の発展のために“高い公共性”を持つことが求められている」(野依氏)という。

 科学研究の評価については,(1)独創性,(2)普遍性,(3)継続的な先導性,(5)科学的波及効果(分野の開拓),社会的波及効果(雇用の創出)---を挙げた。独創性の判断は“驚き”を与えたかどうかで判断できるという。そして研究の評価は定型業務ではなく主観的になされるものであり,評価できなかったら「尊敬されているか?,感謝されているか?」という点についての評判を聞くとよい,とアドバイスした。

 研究の評価に関して数値化することについては「悪しき風潮」(野依氏)だとした。数値化にこだわると「完成度が低い独創的な本物の研究が軽視され,高く評価される転用・盗用・捏造などのコピー文化がまん延し,社会に悪影響を及ぼす」(野依氏)という。これによって,独創的な研究をしている科学技術者たちはむなしさにやせ衰える,と警告した。“不確定性”を重視する科学技術者と,“目標管理”をしたい評価者がお互いの立場を尊重しながら,すべてを数値化することを避ける必要があるという。

 最後に,社会の継続的な発展のためには「文化の向上と世代の継承」が必要だとし,その要素として,(1)言語,(2)情緒(感性),(3)論理(理性),(4)科学---を挙げた。そして野依氏は,四つの中でも一番大事なのは言語力だとした。ノーベル化学賞受賞者143人のうち米国人は52人であるが,52人中約3分の1の14人は移住者であるということを紹介し「この事実を今後の広い意味での教育政策に生かしてほしい」とした。(神保 進一)

【写真】理化学研究所 理事長 野依 良治氏
【写真】理化学研究所 理事長 野依 良治氏