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 東京大学 工学部 物理工学科 新領域創成科学研究科 物質系 専攻 教授 伊藤 耕三氏らは,DNA,導電性高分子,分子被覆導線などの電気抵抗計測手法を研究中であるが,このほど,開発中の手法を使って天然のランダム・シーケンスのDNA1本鎖の電気抵抗を計測した。その結果,DNAの電気伝導度は半導体に分類できるものと絶縁体に分類できるものの2種類があるとした。これは,文部科学省 平成12年度~16年度 科学技術振興調整費 総合研究「新しい情報処理プラットフォームのためのアクティブ原子配線網に関する研究」(研究代表者 日立製作所 基礎研究所 主任研究員 橋詰 富博氏)において,伊藤氏が担当している高分子配線(分子被覆導線)に関する研究の成果。

 伊藤氏らの電気抵抗計測方法は,(1)共同研究者の橋詰氏らが作製した電極間隔約200nmの微細電極を使う,(2)AFMで電極を架橋したDNAなどの試料を観察しながら計測する,(3)試料の観察と同時に,AFMを使って試料1本1本を切断することで,試料1本の電気抵抗を測定できる---のが特徴。

 まず,電極は,橋詰氏らが開発した走査プローブ顕微鏡を使った描画装置を使う。この装置は,顕微鏡の導電性探針先端をレジスト膜に接触させ,探針を走査しながら探針から電子線を照射することで,レジスト膜を絶縁破壊させパターンを描画する。DNAなどの試料をのせる部分をこの装置を使って電極間隔約200nmを実現する。それらとつながっている計測のための電極などの大面積パターンは電子線リソグラフィーで作製している(写真1)。

 この電極にDNAを架橋するには,DNA溶液を滴下し乾燥する。「滴下した溶液の周辺部が乾燥するときに,DNAが1本1本分離し電極を架橋する」(伊藤氏)という(写真2)。

 電極での接触抵抗の影響を取り除くため,電極は4端子構造である。実際4端子電極すべてに架橋したDNA1本鎖もあったが,その電気抵抗を計測することはできなかった。すべて,隣接する電極の2端子測定である。その様子を図に示す。

 DNA1本鎖の電気抵抗は,端子2-端子3間のDNAを順番に切断しることで計測した。切断前のI-V特性が図の中のグラフ1(青),そして,1本1本切断し,その都度計測したのがグラフ2(桃),グラフ3(緑),グラフ4(橙)である。DNA1本目,2本目を切断してもI-V特性に変化はなく,電気抵抗は約100T(テラ)Ωであった。3本目を切断したときにI-V特性に変化があり,その抵抗値は約90M(メガ)Ωであった。「これを電気伝導度に換算すると30S/cmであり,半導体に分類できる」(伊藤氏)という。

 これらの結果から伊藤氏は,DNA1本鎖は絶縁体である場合と半導体である場合があるとした。その違いはDNAのシーケンスによって生じると推測している。今後伊藤氏らは,人工的にシーケンスを制御したDNAを計測することで,これらを明らかにしていく予定。(神保 進一)

【写真1】DNA1本鎖の電気抵抗を測定した電極。右は拡大部分。出典:東京大学 伊藤 耕三氏
【写真1】DNA1本鎖の電気抵抗を測定した電極。右は拡大部分。出典:東京大学 伊藤 耕三氏

【写真2】電極にDNAを架橋したところ。出典:東京大学 伊藤 耕三氏
【写真2】電極にDNAを架橋したところ。出典:東京大学 伊藤 耕三氏

【図】DNAを1本1本切断して電気抵抗を計測していく。出典:東京大学 伊藤 耕三氏
【図】DNAを1本1本切断して電気抵抗を計測していく。出典:東京大学 伊藤 耕三氏