2007年に創立100 周年を迎える東北大学は,「科学が次の100年で創り出せること」と題したセミナーを日本経済新聞社との共催で,2005年1月25日,東京の日経新聞本社で開催した。このセミナーは,全部で5回行う予定。第1回のテーマは「ナノが創る未来の世界 ─機械工学の挑戦─」で,サブテーマは,21世紀の科学技術「ナノテクノロジー」が生活や産業に与えるインパクト。

 今回のセミナーでは,東北大学 総長の吉本 高志氏は「開学以来,研究第一主義,門戸開放という理念の下,また実用忘れざるの主義という学風の下に,長い歴史と伝統が受け継がれてきた。これからも,歴史と伝統を踏まえて,研究中心大学,世界と地域に開かれた大学,そして指導的人材の育成を実現していく。これにより,より高度な世界水準を行く研究教育拠点をつくりたい」と挨拶した。

 この後,「東北大学機械工学の歩み ─次の100年を語るために─」と題して,工学研究科機械システム工学専攻 教授の加藤 康司氏が,東北大学 機械系における過去100年の研究活動と成果を紹介した。流体力学, 破壊力学, エネルギー, 機械要素など,様々な分野で大きく貢献した理論や原理,あるいは実用的な技術開発について報告した。

 続いて,「ナノ工学のフロンティア ─東北大学21世紀COE 研究の今─」と題して,採択された21世紀COE プログラムの中から,三つのプログラムを紹介。このプログラムについて,概説する。

 例えば,工学研究科 エネルギー安全科学国際研究センター 教授の庄司 哲雄氏が拠点リーダーを務める「学術融合領域としての機械科学フロンティア」。ナノメカノケミストリー,ナノ材料・加工,ナノマシン・ナノシステム,ナノ材料強度・信頼性などのサブグループとの連携を図りながら,学際的研究教育と国際研究教育を有機的に組み合わせたダブルスパイラル教育プログラムを実施していくプログラムである。異分野の融合組織を有効に活かしていって,若手研究者の育成環境を形成するという。

 この他,工学研究科 バイオロボティクス専攻 教授の佐藤 正明氏が発表した「ナノ医工学の新たな挑戦」では,東北大学でX線CTの原理が発見されていたエピソードなどにふれながら,東北大学が伝統的に医学・医療への応用技術の開発を行ってきたことを紹介。具体的な研究として,近接場光による細胞の観察,DDS,低侵襲医療,人工網膜,蛍光特性を活かしたガン転移の観察など,幅広い技術開発について報告した。

 流体科学研究所 教授の圓山 重直氏による「分子から地球までの流動ダイナミクス」は,その言葉とおりナノスケールの流動から地球温暖化や寒冷化までを研究するものである。様々な流体現象から, マイクロマシンとナノマンシ, モルフォ蝶の構造にいたるまで,多彩な内容の講演を行った。

 「ナノテクノロジーが創る新産業」では,3つの講演が行われた。
 最初は工学研究科 ナノメカニクス専攻 教授の厨川 常元氏による「ナノ精度機械加工による新産業創出と世界戦略」。非球面レンズの高精細加工を例に, 3次元構造体を創成するためのナノ精度の機械加工プロセス,サブミリサイズの構造体を超精密に創成するM4プロセス技術を解説した。このM4プロセスは応用範囲が非常に広く,工学から医学・歯学まで適用できるということである。

 続く先進医工学研究機構 ナノメディシン分野 助教授の芳賀 陽一氏のテーマは「ナノ・マイクロテクノロジーを用いた精神医療機器の開発」。これまでマイクロマシニングによって開発されてきた,マイクロ圧力センサー,形状記憶合金を用いた能動カテーテルとガイドワイヤ,脳腫瘍などをスポットでスキャンするレーザー治療技術など,実際の応用に向けた研究の報告を行った。

 流体力学研究所 ミクロ熱流動研究部門 助教授の小原 拓氏は「ナノ熱流動機械とDNA解析への応用」と題して,ナノ構造によって発現する熱流動現象を利用した技術を解説した。分子熱流動やDNA分離選別プロセスなどの新しい研究成果を交えながら, これから10年で実現されるナノ熱流動機械のコンセプトと可能性について報告した。

パネルディスカッションでは,パネリストとして独立行政法人 産業技術総合研究所 理事 中部センター 所長の筒井 康賢氏,オリンパス 未来創造研究所 所長の遊佐 厚氏,副総長の大西 仁氏,工学研究科 教授の庄司 哲雄氏の4人に,コーディネーターが日経産業新聞 編集長の岩丸 陽一氏。「ナノはくらしと産業をどう変えるか」というテーマで,ナノテクノロジーの位置づけ,今後のナノテクノロジー政策,技術的な課題などについて議論を行った。

 「ナノテクは強烈な政治的シンボルであるが,冷静が分析が必要である。要するに,ナショナリズムに陥りやすいが,国際的な共同プロジェクトが必要ではないか。ハードだけではなく,ソフトも必要であり,そういう観点からは新たな人材育成が重要だ。次の100年のために, 我々は何をやっていくべきか考えながら進めて行かなければならない」と大西氏。「産業の基盤となるナノテクは, 1社だけでは乗り切ることはできない。これから大きな産業に育てていくには,大きな目標を立てて推し進めていくべきであり,そのためには大学や海外とも連携していく必要がある」と遊佐氏は強調した。

次回のセミナーは,「サイエンスの冒険と私たちのくらし」をテーマに,4 月14日 (木),日経ホールで開催する予定。(佐藤 銀平)

【写真1】主催者の挨拶をする東北大学 総長の吉本 高志氏
【写真1】主催者の挨拶をする東北大学 総長の吉本 高志氏

【写真2】ナノ精度機械加工について講演を行う厨川 常元氏
【写真2】ナノ精度機械加工について講演を行う厨川 常元氏

【写真3】パネルディスカッション
【写真3】パネルディスカッション