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8×8スイッチで単一光子を使った量子暗号の伝送を実証
8×8スイッチで単一光子を使った量子暗号の伝送を実証
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光干渉素子で構成するスイッチで光子一個の伝送経路を制御
光干渉素子で構成するスイッチで光子一個の伝送経路を制御
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暗号鍵データを模したランダムなデジタル信号で単一光子を変調
暗号鍵データを模したランダムなデジタル信号で単一光子を変調
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Albert.Einstein博士が,当時波動としてしか捉えられていなかった光が粒子としての性質を持つことを提唱した「光量子仮説」の発表から今年でちょうど100年。今回NTTが利用した「単一の光子が波動のような干渉作用を示す」現象の理解には,博士も頭を悩ませていたという。
Albert.Einstein博士が,当時波動としてしか捉えられていなかった光が粒子としての性質を持つことを提唱した「光量子仮説」の発表から今年でちょうど100年。今回NTTが利用した「単一の光子が波動のような干渉作用を示す」現象の理解には,博士も頭を悩ませていたという。
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 情報の「盗聴」が原理的に不可能であることから,究極の通信方式として注目を集める量子暗号通信。その研究が実用化に向けて着々と進んでいる(Tech-On!関連記事1同2)。

 NTTは今回,量子暗号通信に使う信号の伝送経路を,一般回線を経由した通信に必要となる光スイッチ中で制御できることを明らかにした。「これまでの開発は,実験室で光ファイバに量子暗号を通し,単にその伝送距離の長さを競う段階にとどまっていた。今回は,実際の光ネットワークに近い環境での伝送に成功した点で従来から飛躍できたと考えている。高速化と長距離伝送化を進めて,2年以内をメドに実用的なシステムを完成させたい」(NTT物性科学基礎研究所 量子光物性研究部長の森田雅夫氏)とする。

光の干渉効果で伝送経路を制御

 今回NTTは,大容量光通信ネットワークの基幹部品として開発中の光スイッチを使って実験を行った。光スイッチを構成する素子はSi基板上にシリカ・ガラスを積層し2本の光導波路を形成したもので,その動作原理は次の通りである。素子に入射した光を二つの光導波路に分岐し,終端で再び合流させる。出射側に設けた二つのポートのうち,どちらのポートから光を出射するかを選択することでスイッチングする。出射ポートの選択は,片方の導波路内で光の位相反転制御を行うことで可能になる。合流した際に二つの光が同位相で干渉し強め合うポートからは光が出射し,逆位相で干渉し弱めあうポートからは光が出ない仕組みである。このスイッチ素子を並列,直列にそれぞれ8個ずつつなげることで8×8の多段構成にした。なお,導波路内での位相反転には熱光学効果を利用している。

一般のデータ通信との混在状態での量子暗号の伝送を検証

 実験では,光スイッチ内に一般のデータ通信の信号と量子暗号通信の信号が混在しても両者を正常に伝送できるかどうかを検証した。「将来,量子暗号通信を基幹系の光回線中に通すことを想定した場合の基礎実験という位置付け」(NTTの森田氏)という。

 実験の詳細は,次のようなものである。まず,暗号鍵データを模したものとしてランダムなデジタルデータを用意した。このデータを用いて,一定間隔で発生させる波長1555nmの単一光子を変調する。これは,単一光子を位相変調器に通すことで実現した。こうして作り出した変調済みの光子と,別に用意した波長1551nmの通常の光信号(10Gビット/秒)を,それぞれ別の光ファイバに入れ,次にこれら光ファイバを通った二つの光を8×8スイッチに通す。そして異なるポートから出射した二つの光のうち,10Gビット/秒の信号光は光ファイバに通してさらに5km伝送した後,受信装置に入力する。実験ではひずみのほとんどないアイ・パターンでの受信を確認している。

 一方,単一光子による量子暗号の信号はマッハ・ツェンダー型の干渉計に直接導き,時間軸方向に隣接する光子間の位相差を測定して元の暗号鍵データであるビット列を抽出する。光子はAPD(電子なだれ型フォトダイオード)で検出する。干渉計とAPDで構成する受信装置の前段には,光スイッチ内で混入する波長1551nmの信号光の影響を減らすためのフィルタを挿入している。このフィルタにより暗号通信の信号である波長1555nmの光も減衰するが,その減衰量は2~3dBと小さい。

2kビット/秒で暗号鍵を伝送,「Mビット/秒級も狙える」

 この結果,単一光子の受信装置では,2kビット/秒での暗号鍵の伝送に成功した。ビット誤り率は6%である。暗号鍵の伝送速度向上のカギを握っている受信装置の外部量子効率は現在約10%。単純計算では,送信された光子のうち10個中9個は受信できていない状態である。「APDの感度を向上させるなどして暗号鍵の伝送速度をMビット/秒級に高めるメドをつけている。この程度の速度が実現できれば,実用上も問題ない」(森田氏)という。原理上,伝送経路中に光増幅器が使えないため,伝送距離を延ばすことも課題である。これについても「暗号鍵の伝送速度とトレードオフの関係にあり両立は難しいが,100kmの大台を目指したい」(同氏)としている。

ポート数の多い光スイッチで実証,大容量通信への適用可能性を示す

 光スイッチを経由して量子暗号を伝送する実験は,これまでにも米国のグループなどが行っている。しかしポート数が2×2や4×4と少ないスイッチを使っていた。これは,透過する素子数が多くなるとスイッチ内での光の減衰が大きくなり,信号を正しく受信できなくなるためである。大容量通信への適用を考えた場合にはポート数が多いほど好ましく,「単一光子を8個もの素子を介してほとんど減衰させずに伝送できたことは今回の大きな成果」(森田氏)とする。また,今回利用したスイッチは,これまで実証に使われてきたMEMSデバイスや電気光学結晶を使ったスイッチに比べて機械的な強度や伝送効率の点で優れており,実用上有利であるという。