医学と工学の共同研究によって,これまでの専門分野を超えた学際的な知識や技術を持つ人材育成を図る。このような目的で2004年度から5カ年計画でスタートしたのが,文部科学省の科学技術振興調整費による「医療工学技術者創成の再教育システム」プロジェクト(東北大学 REDEEMプロジェクト)。このREDEEM(注) プロジェクトの一環として,2005年8月6日,東京の渋谷エクセルホテル東急で「第1回REDEEMシンポジウム ゲノム・生体システム・医療工学を結ぶエンジニアリングを創成する」が開催された(写真1)。主催は東北大学医療工学人材育成委員会,後援は特定非営利活動法人 科学協力学際センターと東北大学21世紀COEプログラム「バイオナノテクノロジー基盤未来医工学」

 開会の挨拶は,プロジェクト代表者である東北大学 大学院 工学研究科 教授の山口 隆美氏(写真2)が行った。この挨拶の中で山口氏は,自身も総括責任者として推進している文部科学省の21世紀COEプログラムにふれている。

 東北大学の21世紀COEプログラム「バイオナノテクノロジー基盤未来医工学」は,2002年度,生命科学分野で唯一採択されたもの。医工連携を明確に打ち出したプログラムである。このプログラムでは,医学と工学にわたる学際教育はもちろん,予防医学技術とテーラーメイド医療のための「未来医工学」に関する国際的な研究拠点を形成すると言う。

 このような背景もあり,これまで培ってきた東北大学の研究・教育活動での蓄積を最大限に活かして,社会人の再教育を行うというのが本プロジェクト目標である。REDEEMのカリキュラムは,講義(集中講義…仙台/出張講義…東京),実習,e-Learningからなる。カリキュラムで特筆すべきは,医学や生物学など実習や実験など体験しながら学べる点だと言う。

 医工連携と言っても,医療現場の医学者と工学者はなかなかコミュニケーションができないというのが現実である。それは,医師の社会的な立場が,工学者とはまったく違っていたからであろう。REDEEMでは,講義で知識を身に付け,実習で手を動かして実体験を積む。それによって,お互いに意志の疎通が図れるようになると言うことだ。

 次に,文部科学省科学技術・学術政策局 振興調整費室長の増子 宏氏が来賓の挨拶を行った。増子氏は「RFEDEEMは,社会人再教育システムの第1号であり,画期的なプロジェクトである。東北大学にはスーパーCOEともいえる先進医工学研究機構(TUBERO)の取組みもあり,医工連携を東北大学の看板にしてはどうか。そういう意味でも,今回のシンポジウムの成功を期待している」と語った。

 今回のシンポジウムでは,山口氏をはじめ3人が講演を行った。最初の講演者である山口氏のテーマは「計算生体力学シミュレーションが開く21世紀の医療工学」。計算生体力学とは,分子・細胞・組織・臓器・個体・種の各スケールにおける力学的現象を明らかにするもので,それによって生命体・生命現象の理解,病理・病態の理解,そして疾病の予測・診断・治療を行う。計算機や計算工学の進歩が大きく寄与してきた分野である。例えば,心臓と血管系の計算生体力学では,流体力学,固体力学,電磁気学,熱力学,物質輸送論と広範な領域に展開。血流における計算生体力学シミュレーションを例に解説した。

 次の講演者は,東京大学 新領域創成科学研科 メディカルゲノム専攻教授の菅野 純夫氏(写真2)で,テーマは「ゲノム医科学の進展と医療工学」。ヒトゲノムプロジェクトの概要,ゲノム情報を応用した網羅的解析などを中心に講演を行った。網羅的解析では,ゲノム SNP等を用いた疾患遺伝子探査,mRNA DNAチップを用いた発現分析,タンパク質 質量分析計を用いたプロテオーム解析,代謝物 質量分析計を用いたメタボローム解析について解説。ゲノム医科学の最前線の報告である。

 最後が東北大学 大学院 医学系研究科 外科病態学講座腫瘍外科学分野 教授の大内 憲明氏(写真2)で,テーマは「異分野融合研究の推進とナノ医療」。大内氏は,ナノテクノロジーの医療への応用は始まったばかりだが,ナノ医療(ナノメディシン)が医学における主要な研究分野になり,しかも新たな産業分野に成長する可能性が高いということを強調した。大内氏らが研究を進めているのは半導体量子ドットの作製と利用で,具体的にはCdSeナノ粒子の医療応用である。例えば,CdSeナノ粒子を用いたHER2発現乳癌細胞の蛍光イメージング,分子標的治療,移植腫瘍へのCdSe-抗体の集積のin vivo imaging,CdSeを用いた光力学療法(Photo Dynamic Therapy),センチネルリンパ節生検などについての詳細な解説を行った(関連記事)。

 大内氏はまた,東北大学におけるメディカルイノベーションとして,東北大学病院を核とした連携体制を紹介。医学と工学の学内連携,先進医工学研究機構,21世紀COEプログラム,産学連携などから新産業創出への道を示した。さらに,医工連携による異分野研究の推進としての学内連携,産業界を含めた学際=異分野融合について解説を行った。ただし,ナノ医療を実現するには解決すべき課題も多い。大内氏によれば,異分野融合による学際的研究体制が最大の課題であるという。もちろん,医療応用からナノテク材料の安全性も重要である。ナノ材料の実用化に関しても,大学での知財管理がうまく行っているとはいえないという。

 このような課題を解決していくためにも,「医学者と工学者の壁」を超える人材育成を目指すREDEEMプロジェクトの意義があるに違いない。ナノ医療実現のために,どのような人材を輩出していくのか。今後の展開に期待したいところである。(佐藤 銀平)

注)REDEEMは,プロジェクト・タイトルの「医療工学技術者創成の再教育システム」を英語で表現したRecurrent Education for Development of Engineering Enhanced Medicineの頭文字をとった略号。redeemという単語は「(人々を)救済する」という意味のラテン語に由来するという。

【写真1】REDEEM委員会の委員と東北大学関係者,社会人受講者など約100人が参加した第1回REDEEMシンポジウム
【写真1】REDEEM委員会の委員と東北大学関係者,社会人受講者など約100人が参加した第1回REDEEMシンポジウム

【写真2】3人の講演者。山口 隆美氏(左上),菅野 純夫氏(右上),大内 憲明氏(下)
【写真2】3人の講演者。山口 隆美氏(左上),菅野 純夫氏(右上),大内 憲明氏(下)