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図 米Airgo Networks,Inc.のChief Scientist兼Executive Director of communication System engineeringのVK Jones氏。
図 米Airgo Networks,Inc.のChief Scientist兼Executive Director of communication System engineeringのVK Jones氏。
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 「MIMO(multiple input multiple output)」を用いる次世代無線LANの規格「IEEE802.11n(以下,11n)」の仕様策定作業が,これまでのこう着状態を抜け出そうとしている。仕様策定の主導権争いをしてきたTGn SyncとWWiSE(World-Wide Spectrum Efficiency)が2005年7月に統合案を作成することに合意したためだ(Tech-On!の関連記事「日経エレクトロニクス」の関連記事)。今回,MIMO対応の無線LANを最初に製品化し,WWiSEに参加しているメーカーである米Airgo Networks,Inc.の技術者に11nの策定状況や今後のスケジュールについて聞くことができた。

 話を聞いたのは,同社の創立者の1人で現Chief Scientist兼Executive Director of Communication System EngineeringであるVK Jones氏と同社Director of Application Technologiesの高木映児氏である。

——IEEE802.11nの仕様策定は現在,どのような状況にあるか

Airgo社 2005年7月のTGnの会合で,WWiSE案,TGn Sync案,そして米Motorola,Inc.などが参加する「MITMOT」の3つの案を統合することになった。2005年11月までに統合案をまとめ,11nのタスク・グループ(TGn)に提出する計画になっている。これまで政治的なかけひきでTGnの草案決定が遅れていたが,対立がこう着状態になっているUWBの二の舞は避けようということでTGn Sync側と意見が一致した。我々はこの合意に非常に興奮している。私は1994年からMIMOを研究しているが,それがようやく本格的に利用される段階に来たと感じるからだ。まるで長年育ててきた子供が,とうとう大学に入ろうとしているかのようだ。

——WWiSE案とTGn Sync案はどのように統合されるのか

Airgo社 WWiSEはこれまで,パソコン市場と携帯機器向け市場を想定した仕様を提案してきた。一方,TGn Sync案は,家電市場とパソコン市場を想定した仕様だった。統合案はまだ固まっていないが,パソコン,家電,携帯機器の3つの市場のすべてに対応する仕様になる見通しだ。Airgo社としては,通信距離や伝送速度,省電力機能,ダイバーシチによる接続の安定性の確保といった点はすべて3市場に共通の必須仕様として決め,特殊な拡張機能だけをオプションにするのがよいと考えている。例えば,TGn Sync案にあった送信ビーム・フォーミングや変調方式の256QAMなどはオプションになるだろう。ただし,中には立場や哲学の違うメーカーもいる。彼らは,最低限の共通のコア仕様を決め,あとは市場ごとに仕様を決めるという考えだ。

——WWiSEはこれまで,変調方式やMIMOの空間多重数などの組み合わせ(モード)の数や機能の点でTGn Syncに比べシンプルさを強調してきたはずだが,多くの機能を1つの仕様に盛り込もうとしているのはなぜか

Airgo社 相互接続性の確保がより容易になったり,市場が広がるため,より低コストで製造できるようになるという利点があるからだ。ただ,1つの仕様で適用できる対象を広げるようとすると,重い仕様になるという課題はある。実際,シンプルであることは重要で,そのために我々は必須仕様に入れるモードや機能を,重要なものだけに厳選するように提案している。

——小型の携帯電話機では,複数のアンテナを搭載するのはハードルが高い。このため,端末側ではアンテナを1本だけ利用するモード「Single Antenna Mode(SAM)」がTGn Sync案にはあった。一方,公開されているWWiSE案にはなかったがそれはなぜか,また統合案ではどうなるか

Airgo社 確かに以前のWWiSEでは「IEEE802.11nは複数のアンテナを使う仕様」という思い込みがあった。しかし今は違う。公表はしなかったが,2005年5月時点で(1度消えたMITMOTから)WWiSEに合流したMotorola社の提案でWWiSEでもMIMOの空間多重数を1にする「Single Stream Mode(SSM)」を仕様草案に取り入れた。SSMではアンテナ1本を使うケースと2本を使うケースを想定している。我々としては,将来的には携帯電話機でもアンテナを2本使うほうが望ましいと考えている。2本使えば多くのメリットが得られるからだ。例えば,ダイバーシチで接続の安定性が確保しやすくなり,通信距離も2本の方が長くできる。統合案では,SAMではなくてSSMが必須になると理解している。

——11月に向けて今何をしているのか。また,正式な11nの標準化スケジュールはどうなるか

Airgo社 今は統合案の技術的な詳細を議論しているところだ。以前と違って政治的な話は脇においやっている。統合案は,物理層だけでなくMAC層の仕様も含むので,技術的に詰めなければならない点は多い。例えば,省電力機能について言うと,WWiSE案とTGn Sync案では,端末のスリープ・モードと通信モードの間のタイミング調整に関するパラメータに違いがある。このパラメータは用途によって異なり,消費電力に2ケタの差がでてくる。

 我々が11月にTGnに提出する統合案は,すぐにTGnの草案として採用されると考えている。7月の時点で統合案をつくることには圧倒的多数が賛成だったからだ。反対だったのは,会合に参加していた200社~300社のうち2社~3社に過ぎない。

 その後のスケジュールがIEEE802.11gを標準化した時とほぼ同じだとすれば,正式な草案を作る編集作業に2カ月~3カ月かかる。それからレター・バロットと呼ぶ投票などを経て2006年12月には最終草案がまとまる。標準仕様として固まるのはその半年後の2007年半ばになるだろう。

——Airgo社としての対応製品はいつになるか

Airgo社 実際に11nの標準化が終わるのを待っていたのでは遅い。我々は11nの仕様が十分固まり,細かな変更にはファームウエアで対応できると確信した時点で,製品化に踏み切る予定だ。その時期を今言うのは難しいが,2006年中というのは無理だと考えている。IEEE802.11gの時は,同じことを言ってLSIの製品化を先走った半導体メーカーがいたが,結局相互接続性が確保できなかった。我々はそうならないよう気をつけるつもりだ。


  8月29日号の日経エレクトロニクス誌では,次世代無線LANと携帯電話機をMIMOで統合した近未来の通信方式と通信機器についての特集記事「次世代ケータイ 1Gビット/秒の青写真」を掲載しています。